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山本昌・野球界最年長投手のやる気の源とは?

2015年03月05日 公開
2023年01月30日 更新

山本昌広(プロ野球選手/中日ドラゴンズ)

『THE21』2015年3月号特別インタビューより/写真撮影:清水茂》

「もう限界か?」と自分に言い聞かせるほど、闘志が湧いてくる

今年、ブロ野球生活31年目を迎える山本昌投手。決してエリ一卜街道とはいえないその道を、努力で歩んできた。長いプロ野球人生の中、どのようにモチベ-ションを保ちながら努力を続けてきたのか、50歳を迎えるシーズン開幕を目前に何を思うのか、お話をうかがった。

 

現役生活最大のターニングポイントとは

 2015年1月。今年50歳を迎える中日ドラゴンズの山本昌投手を、毎年自主トレを行なっている鳥取に訪ねた。昨年、プロ野球最年長勝利投手の記録を塗り替え、31年目のシーズンとなる今年。30年以上もの間、プロ野球選手として活躍を続けるモチベーションの源泉はどこにあるのだろうか。

 「ターニングポイントは1995年です。前年、最多勝投手になりながら、その年はケガが響いて2勝。当時はプロ野球選手の寿命は35歳くらいと言われていて、すでに30歳だったこともあり、自分も先輩たちみたいに、あと数年やって引退していくのかな……と思ったんです。周りも当然のようにそう思っていました。でも、『やっと一軍で活躍できるようになってきたんだ、もっと頑張りたい』という気持ちがどんどん強くなってきたのです」

 とにかく頑張るしかないと、必死にリハビリに励む日々。そこで山本氏のプロ野球人生を変える大きな出会いがあった。

 「当時、チームが取り入れたトレーニングマシンがすごく良くて、それを開発された方に会いに行ったんです。それが、フィットネスコーチの小山裕史先生。身体の動きを科学的に分析して、それに沿ったトレーニングを教えてくれる。目からうろこでした。とにかく『これまでと同じではダメだ、何か変えなきやダメだ』と思っていた時期だったこともあって、この人についていこうと覚悟を決めました」

 ケガをしてトレーニングルームに通い詰めていたからこそのマシンとの出合い、そして先生との出会い。治さなきゃともがき、諦めずに頑張り続けたからこその出会いだったという。

 「マイナスな状況の中でも頑張り続ければ何かが変わっていきます。ずっとトンネルばかりではないのです。悪いときに諦めないことが大切だと思います。僕も、『このままじゃ終われない』と思ってやってきました。僕、しつこいんですよ(笑)」

 頑張ること……“努力”は山本昌投手の代名詞とも言える。手を抜かず、他人のせいにせず、諦めず頑張っていれば誰かが見てくれているのだ。

 

頑張ることをどこまで「ふつう」にできるか

 山本氏のプロ生活は決して華やかなスタートではなかった。

 1984年、ドラフト5位で中日ドラゴンズに入団。高校時代に大きな実績があったわけでもなく、本人にとってもある意味サプライズなプロ入りだった。

 「厳しい世界ということはわかっていました。だから入団当初はとにかく一生懸命に頑張ることだけでした」

 なかなか一軍に上がれず、“島流し”ともいうアメリカのマイナーリーグ留学。しかし、ここでも大きな出会いがあった。

 「留学先のロサンゼルス・ドジャースで出会ったのが、日米野球の架け橋として活躍され、当時ドジャースの会長の補佐役だったアイク生原氏です。入団5年目で後のない僕を常に励まし、最後まで勝負を諦めない気持ちから、決め球のスクリューボールまで、それ以降の野球人生の根幹となる部分を教えてもらいました。アイク氏をはじめ、僕をプロ野球に導いてくれた高校時代の香椎監督、中日の歴代監督など、たくさんの恩人がいます。自分が危機のときに導き支えてくれた方々です。その時々に、『この人だ』と思う人についていったら、たまたまいい方向に運んでくれた。その積み重ねで今の自分があります」

 人は、ひたむきに努力を続ける人には手を差し伸べたくなるもの。山本氏の日頃の姿勢が、周りの人を動かしていくのだろう。

 しかし、その「頑張り続けるモチベーション」はどこから生まれてくるのだろうか。

 「僕にとって“やって当然のこと”は“頑張ること”には入りません。たとえば、日々の練習は毎日やって当然のこと。そこからどう頑張るかが重要なんです。それでその頑張りを続けていくとだんだんとそれが当たり前になっていく。そうやって自分の頑張るラインを上げていくと、“ふつうにできること”が増えていきます。何を自分の“ふつう”に置くかがモチベーションを継続できるかの分岐点にもなります。『このくらいでいいや』と思わないことです」

 とはいえ、50歳を目前にして、さすがに身体がしんどいときも、朝ベッドから起きられない日もある。年齢による限界を感じることはないのだろうか。

 「周りの状況を見て『辞めなきゃいけないかな』と引退を覚悟したことはあります。でも、自分から『辞めたい』と思ったことは一度もありません。勝てなくなったり成績が落ちたりして『もういいかな』と思ってしまうと、そこで緊張の糸がプツッと切れてしまう。これくらいでいいやと自分に妥協すると、そこで止まってしまうのです。それは年齢の問題ではありません。

 2011年は、右足首の負傷で試合に全然出られませんでした。優勝争いをしていたチームに貢献できないことが歯がゆくて不甲斐ない気持ちでいっぱいで。ケガが原因で不本意に引退したくはなかったけれど、夏過ぎに球団におうかがいをたてたんです。そうしたら『球団記録までやってみろ』と(球団最多勝利記録更新が目前であった)。このとき、燃え尽きるまで投げさせてもらえるチャンスをもらったことへの感謝とともに、これまで出会い導いてくれた方々への感謝の気持ちがより強くなりました。『このままでは終われない』、そう決心すると、腹の底からやる気が湧き上がってきました。この1年があったからこそ、次につながったと思います」

 そして、翌年の球団最多勝利記録更新をはじめ、プロ野球最年長出場、登板、勝利と記録を塗り替えていくことになる。

<<次ページ>>「残り」を意識するほどモチベーションは高まる

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