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ハイアールアジア・伊藤嘉明が語る新しい人材論

2015年04月07日 公開
2015年04月23日 更新

伊藤嘉明(ハイアールアジア〔株〕代表取締役社長兼CEO)

 

 

居心地の良い世界を「あえて抜け出せる人」が評価される

世界最小の洗濯機『COTON』を発売し、世間の注目を集めたハイアールアジア。
そのトップを務める伊藤嘉明氏は、前職のソニー・ピクチャーズ エンタテインメントではマイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』を社会現象化させるなど、数々のグローバル企業で実績を挙げてきた人物だ。伊藤氏が挙げる「評価される人の条件」とは何か。お話をうかがった。
<取材・構成 塚田有香/写真撮影:永井 浩>

 

「○○は苦手だから」ではASEANの人材に負ける

 白物家電の販売台数で六年連続世界一のシェアを誇るハイアールグループ。その中で日本とASEAN諸国を統括するのがハイアールアジアだ。2014年2月、その代表取締役社長兼CEOに当時44歳の若さで伊藤嘉明氏が就任した。日本コカ・コーラやデル、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントなど、名だたるグローバル企業で実績を挙げてきた伊藤氏は、旧三洋電機〔株〕の白物家電部門を引き継ぐ形で設立された同社を、どのようにして世界で戦えるグローバル企業へと変革するのか。

 「ハイアールアジアは、過去約10年間にわたって赤字だった組織を引き継ぎました。だから、そのままでは黒字になるはずがない。社長に就任してからは、頻繁に制度や組織変更を行なっています。

 最初に着手したのは職責の見直しです。三洋電機時代に14あった職責の階層を、社長を含めて5階層にまで減らしました。それで何が変わったかというと、社員のオーナーシップ(責任を所有する意識)です。

 階層が多い組織では、社員が新商品を上に提案しても、各階層で必ず『なぜこの機能なのか?』『デザインがダメだ』などの意見が出てくる。全員から了解を取ろうとするうちに、尖った部分が削られ、結局、どこにでもある普通の商品になってしまいます。なのに、そんな結果になった責任を誰も取らない。ですから、決定に関わる人を最小限にし、責任の所在を明確にしたのです。その結果、当社の2014年度の業績は十五年ぶりに黒字に転じ、『COTON』など、他にはない商品を生み出すことができました。

 『評価する人材は?』と聞かれたら、まず、オーナーシップがあることが条件。オーナーシップのある人間は、『自分の人生は自分で決める』という姿勢を持っています。そして、自分が何を欲しいのかがわかっている。

 『3年後にはこんな仕事をしていたい』とわかっているから、そこから逆算して、『そのために必要なスキルを身につけよう』と考え、自ら努力することができるのです。そんな人なら、たとえ経験がなくても、重要なポジションを任せたいですね」

 また、アンテナを広く張り、自分の業界はもちろんのこと、自業種以外の情報にも触れて、感度の高い人間になることも必要だと伊藤氏は話す。

 「『ITは苦手だから』と言ってスマートフォンさえ持とうとしない人がいますが、今やほとんどの日本人がちょっとしたスキマ時間でもスマホに接触しています。LINEやFacebookを使う人が大多数で、使えない人のほうがマイノリティ。他人が当たり前にやっていることができない人は、どの組織でも必要とされません。その現実を直視すべきです。

 世界に目を向ければ、危機感はもっと強まるはずです。このまま円安が続けば、日本企業の時価総額が下がり、海外企業に買収される可能性が高まります。そのとき、日本人従業員がそのまま雇用を継続されるとは限りません。ASEANでは、母国語に加えて英語をはじめ数カ国語を話すことができ、しかもMBAも持ち、複数社での就業経験まであるような人材を、日本人の3分の1から半分程度の年収で雇うことが可能です。

 ですから、日本の人たちも世界で戦える武器を持つべきです。武器というのは、たとえば英語などの語学力を含むコミュニケーション力全般。情報を取捨選択する力も含まれます。インターネットでどんな情報でも手に入る時代には、発信力だけでなく、受信力も問われます。たとえば私が社員に『世の中にない洗濯機の企画を出してください』と宿題を出して、言われたままに『世の中にない洗濯機』と検索窓に入力する社員と、自分の頭で『世の中にない洗濯機ってどんなものだろう?』と考えてから『世界最小の洗濯機』と入力する社員では、成果に大きな差が出ます。こうした能力も含めたコミュニケーション力が、非常に強力な武器になるのです」

 

前例がない仕事をやらない人は評価しない

 伊藤氏自身、数々のグローバル企業で実績を残してきた。まさに「世界で通用する人材」を体現する人物だが、本人は周囲の評価を得るために、どんな努力や心がけをしてきたのか。

 「私は転職のたびに前職とは違う業界を選び、あえて『よそ者』になろうとしてきました。会社の事業を伸ばす、あるいは再生するには、よそ者ならではの新しい視点や発想を持ち込み、業界の常識を覆すことが有効だと知っていたからです。ただし、そんなことをすれば、『素人に何がわかるのか!』と周囲は反発します。それを跳ね返すには、自分でやってみせるしかない。そうすれば、周囲の評価が変わる瞬間が必ず訪れます。

 前職のソニー・ピクチャーズエンタテインメントでは、マイケル・ジャクソンのDVD『THIS IS IT』の記録的セールス樹立に成功しましたが、実は当初、社内で設定した販売目標はわずか30万枚でした。私は、『200万枚売りましょう』と宣言した。業界の経験が長い社員たちは無理だと反発しましたが、最終的には230万枚を超える売上げを達成しました。

 そのときに私がやったことの1つが、新たな販売ルートの開拓です。スポーツ用品店やスポーツジムなどは、その一例。これらの店舗や施設は間口が広く、レンタルショップやDVDの販売店などでは貼れない巨大ポスターも展示できる。私から見れば、こんなにメリットの大きい場所はありませんでした。そこで取引先に営業に行ってみると、相手は『いいですよ。うちに置きましょう』と言ってくれて、数万単位で数字が積み上がっていった。このようにして次々と結果を出すことで、最初は反対していた人も私のやり方を認めるようになりました。自分でやって成果を残せば、自然と評価はついてくるのです」

 そして伊藤氏は、日本のビジネスマンに「コンフォートゾーンから飛び出す勇気を持ってほしい」とメッセージを送る。

「今の職場の居心地がいいと感じているのなら、抜け出す努力をすべきです。同じ場所で3年も過ごすと、その分野のことはだいたいわかって、仕事がラクになる。ラクだと感じた瞬間に進歩は止まっています。

 コンフォートゾーンを抜け出すには、転職するのも1つの方法ですが、それが難しいなら、ぜひ社内で前例のない仕事に挑戦してほしい。『COTON』を世に出せたのも前例に囚われないよう意識しているからですし、前職で『THIS IS IT』を社会現象化させたのも同様です。先ほど話したスポーツチャネル以外にも、コンビニや郵便局、大型スーパーの生鮮食品売場など、新たな販売ルートをいくつも開拓しました。どれも周囲は『前例がない』と反対しましたが、コンビニは24時間開いているし、郵便局は全国に25000拠点近くもあるし、スーパーの生鮮食品売場のレジ前を通る人は全国で1日に800万人もいる。前例がないからといって、やらない理由はどこにもありません。

 だからみなさんも、あえて『他人に反対される人間』を目指してほしい。そのときは居心地が悪くても、必ず成果は出る。そして、社会や組織から高く評価される人材になれるはずです」

(『THE21』2015年4月号より)

伊藤嘉明

(いとう・よしあき)

ハイアールアジア〔株〕代表取締役社長兼CEO

1969年、タイ・バンコク生まれ。米国オレゴン州コンコーディア大学卒後、タイでオートテクニックタイランドへ入社。その後、米国サンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得。日本アーンスト・アンド・ヤング・コンサルティング㈱、日本コカ・コーラ㈱を経て、デル米国本社、レノボ米国本社、アディダス ジャパン㈱で要職を務め、2009年に入社した㈱ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントではホームエンタテインメント部門の日本代表および北アジア代表を務める。14年より現職。

<掲載誌紹介>

THE21 2015年4月号 いつも評価が高い人VS.なぜか評価が低い人2015年4月号(いつも評価が高い人VS.なぜか評価が低い人)

<読みどころ>
組織に属する以上、誰もが気になるのが「評価」。 
人間が人間を評価する以上、そこには必ず「歪み」が生まれます。
ただ、それを放置することで、社員がモチベーションを下げてしまったり、間違った努力を繰り返してしまっては、会社・社員ともに不幸になります。
そこで今回、多くの識者への取材を通じ、「会社が評価する人」の条件を探り出してみました。
評価する側200人、評価される側200人への緊急アンケートを始め、一部上場著名企業から現役人事マン、コンサルタントなど様々な方から「今、評価される人材の条件」を徹底的に聞き出しています。
皆さんの「正しい努力」につながれば幸いです。

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