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プロレス再興の立役者・棚橋弘至が語る「やる気の自給自足」術

2015年04月13日 公開
2023年02月01日 更新

棚橋弘至(プロレスラー)

 

自分に声援を送ればやる気が湧いてくる

 さらに棚橋氏は、プロレスラーならではのモチベーション向上メソッドを伝授してくれた。

 「僕たちプロレスラーは、試合中にどんなにダメージを受けても、息が上がっていても、観客席からコールが沸き起こると不思議と立ち上がれるものなんです。『棚橋! 棚橋!』というコールには、『棚橋、立ち上がってくれ』というお客さんの期待が込められているからです。人に期待されるということは、そのくらい大きな喜びであり、モチベーションを上げてくれることです。

 僕が考えたのは、『普通は他人から受ける期待を“自給自足”できないか?』ということです。

 どうしても仕事がうまくいかずモチベーションが下がったとき、あるいは疲れてもうダメだ、と思ったとき、内なる『棚橋コール』を起こす。『お前はそんなもんか?』『まだいけるだろう』と自分に期待する。これが『期待の自給自足』です。

 振り返ってみると、試合で『棚橋コール』がまったく起きなかった時代もあったので、それだけに僕にはファンの声援=期待に対する飢餓感が強いのでしょうね。そして、期待に応えたいという思いも。お客さんをガッカリさせたくないし、自分自身にもガッカリしたくない。この思いがあるからこそ、内なる『棚橋コール』がよく効くのかもしれません」

 ここまでやっても結果が思いどおりにならないときは、もちろんある。プロレスに限らず、どんなビジネスでも失敗はつきものだ。そこでも棚橋氏には明確な方針がある。

 「僕と他の選手との一番の違いは、切り替えの上手さですね。失敗すると落ち込むのは誰でも一緒です。僕は落ち込んでいる時間が極端に短い。落ち込んでいる時間があったら、道場に行ってバーベルを1回上げたほうが自分のためになりますから。どんな世界でもそうでしょうが、切り替え上手な選手はやはり上に行きますよ。

 では、気持ちを切り替えるために具体的にはどうするか。僕は試合に負けたときなど、次の日に即、ブログを更新するようにしています。

 もちろん、負けた悔しさを忘れることはできません。ここでいったんしまっておく、というイメージです。

 そのうえで、次にその相手と試合をするときにはしまってあった悔しさをひっぱり出してくる。すると、試合が盛り上がるということですね」

 「期待の自給自足」「悔しさは、引きずらないけど忘れない」。次々と名言を繰り出す棚橋氏は、言葉にも強いこだわりを持っている。

 「実は、先日失敗してしまったんです。2月の王座防衛戦を発表したときに、『ド派手に防衛したいと思います』と言ってしまった。ここは『ド派手に防衛します』と言い切らなくてはいけなかったところでした。日頃から若手には『言い切れよ』と言っているのに(笑)。

 言葉遣いが無意識の部分に与える影響がどの程度かは、わかりません。でも、思っていることを言い切らないと。『頑張りたいと思います』という人に仕事は振れないでしょう? 『絶対やります』と言うから期待されるし、仕事を任される。エネルギーのある言葉を選んで使っていくことは、モチベーションを高めるためにも重要なことです」

<取材・構成:川端隆人 写真撮影:永井 浩>

『THE21』2015年3月号より》

棚橋弘至(たなはし・ひろし)

プロレスラー

1976年、岐阜県生まれ。1998年、入門テストに合格。1999年、立命館大学法学部を卒業後、新日本プロレスに入門。同年デビュー。2003年、初代U-30王者。2006年、IWGPヘビー級王座を初戴冠。2009年、11年プロレス大賞MVP。2014年、第7代IWGPインターコンチネンタル王者に。第45代、47代、50代、52代、56代、58代IWGPヘビー級王者。
著書に、『棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか』(飛鳥新社)など。

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