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神田昌典×竹田恒泰<特別対談>今、必要な勉強とは〔2〕

2015年04月30日 公開
2023年07月03日 更新

神田昌典(経営・マーケティングコンサルタント),竹田恒泰(作家/慶應義塾大学講師)

IT化が進むほど「本」の価値はむしろ高まる

〔1〕からのつづき

 

これからの情報把握は「時間と空間」で

――では、そうして手に入れた大量の情報の中から、いかに本質を見出していくのか。神田氏は竹田氏の情報把握の視点に注目する。

神田 もう1つ、竹田さんのお話を聞いて思ったことがあります。これからの情報というのは、「時間と空間」の2軸で押さえるべき、ということです。
 時間というのはまさに歴史的な情報。単純に「今、何が起きているのか」という現代の情報を手に入れるだけでなく、なぜそうなっているかまで歴史をさかのぼって探っていく姿勢です。
 そしてもう1つが空間。これはまさに地理的な広さで、日本だけでなく中国・韓国はもちろん、全世界の情報を押さえる。そのうえで、自説を述べていく。
 竹田さんの言論がこれだけ受け入れられているのは、良質な情報を時間と空間の両面で押さえながら、適切な意見をメディアを通じて発信しているからではないでしょうか。

竹田 そこまで意識したことはないのですが、こうして論理的に解析していただくと、「あ、そういうことかな」と(笑)。
 私の思考の原点は、孝明天皇の研究でした。私自身が皇室の血を引いているということもありますが、「なぜ昭和天皇や明治天皇に関してはいろいろな研究本が出ているのに、孝明天皇に関する研究本は少ないのだろう」という素朴な疑問がきっかけで調べ始めると、この幕末という時代はまさに、日本文明が最頂点に達した時代だということがわかってきた。明治維新後は西洋の文明が入ってきたため、飛鳥時代、奈良時代……と培われてきた日本独自の文明という意味では、まさに幕末が頂点だったわけです。だからこそ幕末のことを知れば知るほど、歴史をどんどんさかのぼって「あれも知りたい、これも研究したい」ということが無数に出てきたのです。

神田 私はそうした竹田さんの「気になったらすべて調べ上げなくては気がすまない」という、失礼な言い方をすれば「オタク気質」が、これからの勉強法を語る上でとても重要だと思います。表面的な情報がいくらでもネットで手に入る以上、1つのことをどんどん深掘りして得られた知識こそが、価値になると思うのです。

竹田 同感です。それになにより、そもそも興味の赴くままに深掘りしていくことは楽しいので、勉強が苦になりませんよね。私などは締め切りがないといつまでも勉強を続けてしまうので、発刊できない本の企画がたくさんあります(笑)。

神田 ところで、歴史の話になったので、ぜひうかがいたいことがあります。日本語というのは世界でも類を見ないほど古い言語だと著書にありましたが、それは本当なのですか?

竹田 もちろん、文献がない時代のことは想像するしかありませんが、少なくともかなり早くから日本語の言語文化が成立していたのは事実です。その証拠が漢字の「音と訓」。私の「竹」という字なら、中国語の音から来た「チク」という音と、「たけ」という日本語の読みが並列しています。これは英語でいえば「apple」と書いて、そこに「りんご」とルビを振って読ませるようなものです。韓国やベトナムなど、漢字を導入した国はたくさんありますが、こんなふうに漢字を「使い倒した」国はありません。

神田 それは面白いですね。

竹田 さらに明治維新後、日本には多くの外来語が入ってきましたが、たとえば「economy」を「経済」とするなど、日本人は多くの外来語を漢語に訳しました。これを和製漢語というのですが、現代中国語の社会科学系の言葉の七割以上が、日本人が創った和製漢語だということなのですよ。
 中国人も自分たちで訳語を作りましたが、「日本人が作ったもののほうがいい」となったのです。それくらい漢語を使いこなしていた。そもそも「中華人民共和国」の「人民」も「共和国」も和製漢語です。

神田 つまり、日本のフィルターが入っていると。

竹田 はい。だから日本人は、漢字文化は中国から来たものだと卑下する必要も、逆に中国文化を否定する必要もないのです。

神田 そういえば、先日中国に行った際、驚いたことがあります。レクチャーの最初に、「中国の三賢人に感謝の気持ちを述べましょう」ということで、孔子、老子、荘子への敬意を表すことになり、皆、熱心にそれをしていたのです。教室には孔子や老子の掛け軸もかかっていました。
 中国は最近、国策としても古典回帰を始めたのですよね。孔子学院とか。

竹田 そうなんです。ただ問題は、中国では字を簡略化していること。あれは毛沢東が、若者が古典を読めなくするため、つまり古典と断絶を図るためにやったんだという説は根強くあります。
 確かに、簡体字から元の字を想像するのはかなり難しい。たとえば「丰」という字は豊という字の簡体字ですが、まったく違いますね。
 そう考えると、最も優れた漢字文化を継承しているのは日本と言えるかも知れません。

神田 中国もやっと、そのことの問題に気がついてきたのかもしれませんね。ともあれ、そう考えると今でも漢字文化の最も優れたものを継承してきたのは日本だと言えるかもしれません。
 竹田さんは、幕末という頂点を知ってしまったからこそ、今の日本を頂点に戻したい、という思いがあるのでは?

竹田 おそらく、そうですね。まあ、単純に日本が好きなんですね。大震災以降、日本的なものをよしとする風潮がようやく生まれましたが、それ以前はそういう風潮がまったくなかった。そこで、「いや、日本って、こんなに素敵なんだよ」ということをみんなに知ってほしいのです。

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著者紹介

神田昌典(かんだ・まさのり)

経営・マーケティングコンサルタント、作家

上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。その後、米国家電メーカー日本代表を経て経営コンサルタントとして独立。多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本のトップ
マーケター」に選出。2012年、大手ネット書店の年間ビジネス書売上ランキング第1位。ビジネス分野のみならず、教育界でも精力的な活動を行っている。
主な著書に『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)、『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)、『成功者の告白』(講談社)、『非常識な成功法則』(フォレスト出版)など多数。
アルマ・クリエイション株式会社代表取締役。一般社団法人Read For Action代表理事。

竹田恒泰(たけだ・つねやす)

作家

昭和50年(1975年)旧皇族・竹田家に生まれる。明治天皇の玄孫に当たる。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。専門は憲法学・史学。作家。平成18年(2006年)に著書『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)で第15回山本七平賞を受賞。最新刊『日本人が一生使える勉強法』を始め、著書多数。

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