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世の中に出回る「数字」のウラを読み解け!

2015年09月01日 公開
2023年01月05日 更新

『THE21』編集部

 

3 男女共同参画は出生率の回復につながるのか?

 

 現在、日本が抱えている長期的な重要問題の一つが少子高齢化だ。社会保障制度の破綻とともに、将来の労働力不足も懸念されている。労働力を維持するためには、職に就いていない女性を労働力化することや合計特殊出生率を向上させることなどが必要だと言われている。

 さらに、働く女性を増やすことが出生率の向上にもつながる、という主張も聞かれる。その際にしばしば引き合いに出されるのが、先進各国の出生率と女性労働力率(15〜64歳)との関係を示したグラフ(左側)である。OECD加盟30カ国(当時)中、1人当たりGDPが1万ドル以上の24カ国について調べた2000年のデータでは、確かに、女性労働力率が高い国のほうが出生率が高いという相関が見られる。

(資料)Recent Demographic Developments in Europe 2004, 日本:人口動態統計, オーストラリア:Births, No.3301, カナダ:Statictics Canada, 韓国 Annual Report on the Vital Statistics, ニュージーランド:Demographic trends, U.S.:National Vital Statistics Report, ILO Year Book of Labour Statisticsより作成。
(注)女性労働力率:国により一部、調査年および対象年齢が異なる。
出所:内閣府男女共同参画局HP

 

 しかし、ここで気をつけたいのは、相関関係と因果関係は別物だということだ。このグラフは、「女性労働力率を高めれば出生率も高まる」ということを示しているわけではない。実際、1970年のデータ(右側)では、女性労働力率が高い国ほど出生率が低いという相関があったのだ。

 相関関係が反転した理由は、この間に各国が行なった施策にあるのかもしれないが、このデータだけから読み取ることはできない。女性労働力率の向上も出生率の向上もともに重要な課題だが、両者の関係を知るためには、さらに詳しい分析が必要だ。

 また、ここで取り上げられている各国は、世界全体から見れば、いずれも出生率が低い国々だと言える。「1人当たりGDPが1万ドル以上のOECD加盟国」というサンプルの抽出法が妥当かどうかも、もしかすると問うべきなのかもしれない。

 

4 「たばこで死亡、年12万9千人」は、どうやって数えた?

 

 2012年、東大や阪大などのグループが国際医学誌『プロスメディシン』に「07年に喫煙が原因で亡くなった大人の日本人は約12.9万人いた」とする論文を発表した。07年の死者数は、子供も含めて約110.8万人なので、かなり多いと感じられるのではないだろうか。

 この数字は新聞でも報道され、厚労省が医療費削減のために進めている「健康日本21」という取り組みの中でも紹介されている。

 しかし、ちょっと考えてみていただきたい。たとえば喫煙者が心筋梗塞で亡くなった場合、原因は喫煙なのか、他の原因で亡くなったのか、明確に区別できるだろうか。実際には、複数の要因が絡んでいることが多いのではないか。

 実はこの数字は、各疾病について、それによる死亡者数に喫煙の「人口寄与危険度」をかけたものを合計して出されている。例を挙げると、45〜59歳の男性の場合、虚血性心疾患(心筋梗塞と狭心症)については、喫煙の人口寄与危険度は49%とされている。つまり、虚血性心疾患で亡くなった人のうち49%を「喫煙が原因の虚血性心疾患で亡くなった人」としてカウントしているのだ。

 ところが、この論文によると、45〜59歳の男性の虚血性心疾患には喫煙以外にも寄与している要因があり、高血糖19%、高LDLコレステロール33%、高血圧24%……とあって、すべて合計すると、なんと225%になってしまう。100%を大きく上回っているのだ。

 ということは、「喫煙が原因の虚血性心疾患で亡くなった人」の数も、他の要因による虚血性心疾患で亡くなった人の数も、実際よりも多くカウントされている可能性がある。虚血性心疾患以外の疾病についても同様のことが言える。

 これは、論文をよく読めば書かれているとおり、「個別の要因分析において要因間の相関関係を考慮していない」という問題があるからだ。

 また、各疾病に対する喫煙の人口寄与危険度が、この論文で使われた数字で本当に正しいのか、という問題もある。各疾病と喫煙の関係については複数の疫学的調査の研究論文があり、論文によって結果の数字が違っているからだ。

 一つひとつ数えて集計したわけではない数字は世の中に多く出回っている。そんな数字は、根拠がどこにあるのか、きちんと調べるべきだろう。

 

《『THE21』2015年7月号より》

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