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「考える力」を高める 哲学者の言葉

2015年09月04日 公開
2023年05月16日 更新

小川仁志(哲学者/山口大学教授)

人間は動物と超人のあいだに渡された
一本の綱だ。

ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』)

これはドイツの哲学者ニーチェの言葉です。彼は人間が「超人」を目指すことを訴えています。超人とは、神に頼ることなく、強く生きていける人のことです。彼は「神は死んだ」と言って、キリスト教批判を展開したことで有名です。キリスト教は、愛の宗教と言われるように、人を慰める宗教です。そして救済してくれる主体として、神の存在を肯定します。

ところがニーチェは、そんな神に頼ってばかりいては、いつまでたっても強く生きることはできないと主張するのです。だから、神は死んだと宣言し、自らが超人になることを説いたわけです。何があってもくじけずに強く生きていくためには、確かに自分を超人だと言い聞かせるのもいいかもしれません。

 

自分の身を守ろうとする君主は、
よくない人間にもなれることを、習い覚える必要がある。

(マキャヴェリ『君主論』)

これは、イタリアの政治思想家マキャヴェリの言葉です。わかりやすく言うと、リーダーたる者、時には冷徹になる必要があるという意味になります。

彼の思想はリアリズムに満ちています。目的のためには手段を選ばない悪名高き権謀術数は、マキャベリズムと呼ばれ、現代でも強権的な政治家を揶揄する表現として使われています。

それはたとえば、風習の異なる国を支配するときのやり方にも表われています。マキャヴェリによると、その際君主に求められるのは、「強制すること」だといいます。そして、強制のための手段として、実力組織、つまり自前の軍隊を持つことを勧めます。

たしかに、食うか食われるかの状況なら、このような現実的な発想をするより他ないのかもしれません。マキャヴェリが君主に冷徹さを求めるのも、慈悲深さがかえって無秩序を生み、殺戮や略奪を許すことになるからです。それなら、最小限の見せしめによって、秩序を維持したほうがましだというわけです。

リーダーにとって最も大事なのは、決断力です。たとえ誰かが傷つくとしても、躊躇せず冷静かつ冷徹に判断のできる人こそが、リーダーの資質を備えていると言っていいでしょう。なぜなら、一瞬の躊躇が集団全体の命取りになることもあり得るからです。だからリーダーを目指す人は、常にいい人ではいられません。時には嫌われ者を演じる必要があるのです。いざというときのために、ぜひ頭の片隅に置いておきたいひと言です。

 

我思う、
ゆえに我あり。

(デカルト『方法序説』)

これはフランスの哲学者デカルトの言葉です。ラテン語では「コギト・エルゴ・スム」と言います。この言葉は有名なわりに最も誤解されているものの一つです。考えるから自分が存在するという意味だと思われているのですが、実はデカルトが言いたいのは、最後に信じられるのは自分だけだということです。

デカルトは真理を発見するために、身の回りにあるあらゆるものを疑いました。そうすると、なんでも疑えるけれども、自分が今疑っているという事実だけは疑い得ないことに気づいたのです。世の中、情報が溢れていて、何を信じたらいいのかわかりません。そんな中で唯一確かなのは、自分の意識だけなのです。だから自分を信じて前に進んでいくしかないのです。

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実存は 本質に先立つ。 >

著者紹介

小川仁志(おがわ・ひとし)

哲学者、山口大学准教授

1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。哲学者・山口大学准教授。米プリンストン大学客員研究員(2011年度)。商社マン、フリーター、公務員を経た異色の哲学者。商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。専門は欧米の政治哲学。
著書に『市役所の小川さん、哲学者になる 転身力』(海竜社)、『人生が変わる哲学の教室』(中経出版)、『アメリカを動かす思想』(講談社現代新書)、『7日間で突然頭がよくなる本』(PHPエディタース・グループ)、『超訳「哲学用語」事典』(PHP文庫)などがある。

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