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怒れば、怒られます。倍返しを食らう国(コロンビア)

2015年11月08日 公開
2017年10月03日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(3)石澤義裕(デザイナー)

実は意外と安全な国!?

小説よりも奇妙なことが起こる国

妻と世界一周に出て、11年目。今年の8月中旬、フェリーで稚内市からサハリンへ渡りました。軽自動車でシベリアを横断中です。

ロシア人は、社会主義的頑固者だと恐れたものですが、意外に人懐っこいです。カエルの鳴き声以上に意味不明のロシア語で、果敢に話しかけて来ます。しばしばウォッカ臭い彼らですが、テレビに映るプーチンを見てうなずき合い、わけもなく大笑いしております。シベリアを横断後、モンゴル、中央アジア、イランを経由し、アフリカを目指します。

今回のレポートは、今や南米で一番安全な国とも言える、コロンビアです。通算半年以上滞在し、プチ移住候補地のひとつです。


(魚をさばく人。人々は勤勉、に見えるが……)

コロンビアといえばその昔、世界のコカイン市場の約8割を売り上げていた麻薬大国。麻薬カルテルの元締めだったパブロ・エスコバルは、大統領候補を暗殺し、旅客機を爆破したこともある、武闘派元国会議員です。

そもそもは墓石を盗んでは墓銘を削って売りに出すリサイクル泥棒だったのが、『フォーブス』誌に世界で7番目の大富豪と紹介されるほどに立身出世。悪銭を慈善事業に勤しんだ、貧困層の英雄です。

コカインの輸出先だったアメリカへ引き渡されるのを恐れて、自費で建てた専用刑務所、通称「ホテル・エスコバル」に自ら収監されます。ディスコやサッカー場を併設し、逃げも隠れもせず正面玄関から脱獄。逃亡中は、2億2000万円相当のドル紙幣を、薪代わりに燃やした罰当たりです。真実は小説よりも現実味のない、コロンビアなのです。

そのエスコバルの同郷の知人が、ボクらのコロンビアの定宿の女将。敬虔な美人クリスチャンですが、バツイチ。コロンビア男性は、お酒を飲んでいるか、クスリをやっているか、女性と遊んでいるか、さもなくば行方不明の体たらくなのです。腹が減らないと帰って来ないので、結婚生活は長く続かないそうです。

あるときバイクの調子が悪いので、バイク店に修理を依頼し、用事があって日本に一時帰国しました。

ひと月後にバイク店に顔を出したら、愛車は埃まみれでした。シートに溜まった埃を指でなぞっているボクに、「部品がないので、修理できませんでした」と言い訳します。

ラテン人にしては珍しく、顧客の顔色を伺って柔軟に態度を変えるとは、殊勝な商売をしています。憎めません。ただ彼が手にしている書類が、先月ボクが渡した部品リストなのだから、首のひとつも絞めたくなるものです

南米を旅して学んだことは、相手に非があっても怒るなかれです。怒れば、逆切れされます。倍返しです。

何事もなかったように「で、いつできるの?」と訊きましょう。「来週の月曜日に」と何事もなかったかのように答えてくれます。商談はスムーズに進みます。ただ翌週の月曜日、同じことを言われます。「来週の月曜日に…」

これを4回繰り返して、ボクらは埃で真っ白になったバイクを引き取りました。担当者は、ミジンコほどの遺憾の意を目もとに浮かべて、「あの……、洗車しましょうか? 」とけなげなことを申し出ました。

何があっても決して謝らない彼らだけれど、態度以上に反省しているようです。誠意に甘えて洗車をしてもらったら、誠意の見られない金額を請求されました

悲しいかなコロンビア、悪びれることを知らないくせに、したたかに商売上手です。


(愛社が直るのはいつの日か)

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著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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