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「仕事の効率化といえばエバーノート」と頼られるブランドを目指して

2015年12月25日 公開
2016年04月06日 更新

井上 健(Evernote日本法人代表)

【連載 経営トップの挑戦】 第2回
Evernote日本法人代表 井上 健

 

『エバーノート』は、文章でも画像でも、さまざまなデータを保存、整理することができ、スマホやパソコンなどからいつでもアクセスできるサービスだ。ビジネスで、あるいはプライベートで活用している人は、読者の中にも多いだろう。使っていない人でも、その名前を聞いたことはあるのではないだろうか。クラウドを使ったサービスは多くあるが、その中でもとくに高い認知度を誇る。エバーノートはどのように運営されており、これから何を目指すのか。日本法人代表の井上健氏にお話をうかがった。

 

個人向けサービスから、法人向けサービスへと拡大

 ――まず、エバーノートの日本法人代表に就任された経緯をお教えください。

井上 私は7回くらい転職しているんです。いずれもいわゆる転職活動をしたわけではなくて、その時々に自分にしかできないようなことを、人との出会いを契機に活躍の場を変えてやってきました。3年半ほど前にエバーノートに参加したときもそうです。

 その直前は、頓智ドットというスタートアップに3人目のメンバーとして参加していました。『セカイカメラ』(2009年リリース)という世界的に有名なったアプリを開発した会社の、ほぼ創業時のメンバーです。当時はスマホのアプリの黎明期で、同じように成長しているアプリの会社ということで、エバーノートのメンバーが来日したときに交流するようになり、仲良くなりました。頓智ドットを辞めたことを伝えたら「うちに来ないか」といっていただいたのがご縁で、エバーノートに参加したのです。

 ――日本代表に就任することになって、どういうことをしようと思われましたか?

井上 当時、すでにエバーノートの日本での知名度はかなり高く、ユーザーも伸びていましたが、転換点にありました。スマホのユーザーの伸びは鈍化するだろうし、すでにエバーノートの浸透率が高い中で、さらにユーザーを増やし、業績を上げていくためには、それまでと違った方向性を打ち出さなければならなかった。

 ちょうどその頃、Evernote Businessという法人向けのサービスを立ち上げる構想がありました。それまでは、個人のユーザーが趣味にでもなんにでも使えるサービスだという言い方をしていたのですが、「仕事」というものを1つの軸にして、法人への展開を考えていたのです。すると、マーケティングも営業戦略も違ってきますし、そもそも製品が違ってきます。新しいことができるのではないかと思って、エバーノートに参加することにしました。実際、その後に Evernote Business の立ち上げメンバーになりました。今も違った意味で変化を求められていますが、当時はプロダクト戦略のうえでの大きな変革のときだったのです。

 ――ビジネスモデル自体を変えたということですか?

井上 ビジネスモデルは、個人向けも、法人向けも、ともに非常に単純で、ユーザーから直接的にお金をいただくという以外はありません。広告も載せませんし、ビッグデータを分析して他社に売ることもしません。ただ、個人向けと法人向けでは、当然、大きな違いもあります。従来は「フリーミアム」で、無料で使っていただくユーザーのうちの一部でも有料のプランに登録していただければいいという考え方でしたが、法人向けだと最初から料金をお支払いいただくわけです。購入の意思決定も個人ではなく会社組織になり、ニーズも異なるし、当然、マーケティングも異なる。そういう観点では、まったく違うビジネスの展開だと言えます。

 ――具体的には、個人向けと法人向けとで、どういうところを変えたのでしょうか?

井上 たとえば、それまでは存在すらしなかった、セールスやチャネルという組織を作る必要がありました。サポートに求められるものも個人向けとは違いますし、採用する人自体をそれまでとは大きく変えたのです。個人向けだと、コンシューマ向けのマーケティングに長けた人や、先端的なITの活用を広く伝えられるエバンジェリストが必要ですが、法人向けだと、具体的な効率化効果を見いだして伝える能力、法人の意思決定を促す提案力や、チャネル・パートナーとの協力関係の構築力などが重要になります。

 また、Evernote Businessを知っていただくために、年間100回くらい、セミナーを全国各地で開催しています。これは米国でもやっていませんし、日本のコンシューマ向けのマーケティングでもやってこなかったことです。これに当たっては、NTTドコモさんなど、10社以上のパートナーと提携しています。

 パートナーとの提携ということでは、個人向けのサービスの話になりますが、NTTドコモのユーザーにEvernote プレミアムを提供することも、私がエバーノートに参加する前から、4年ほど続けてきています。こうした通信キャリアとの提携も日本法人が最初に始めたことで、その後、ドイツやフランス、英国、中国などでも同様のモデルを展開しています。エバーノートの中で、日本は世界に先駆けて新しいことにチャレンジしているのです。

 ――エバーノートにとって、日本はとりわけ重要な国だということでしょうか?

井上 とくに初期の頃は、日本のユーザーの伸びが顕著でした。広告は打たなかったのですが、ブロガーやメディアに取り上げていただいて、急速に広がりました。20~25%が日本のユーザーだったと聞いています。今は、中国やインドなど、人口が多い新興国のユーザーが増えていて、全世界1億5,000万ユーザーのうち、日本は800万くらいになっています。ただ、これは登録ユーザーの数で、アクティブユーザーや有料ユーザーの数や比率でいうと、日本は米国に次いで第2位。非常に大きなマーケットです。おかげで、エバーノートの中での日本法人の発言力は強く、やりがいをもって、どんどん新しいことに挑戦できています。外資系企業の中には、日本法人はただ本社の言うことだけすればいいというところもあるようですが、エバーノートはそうではありません。

 

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著者紹介

井上 健(いのうえ・けん)

Evernote日本法人代表

〔株〕住友銀行(現〔株〕三井住友銀行)に入行後、米国留学を経てNECへ出向。シリコンバレー戦略部門の立ち上げに参画し、事業開発、ベンチャー提携などに従事する。帰国後、〔株〕ネットエイジ(現ユナイテッド〔株〕)執行役員に就任し、以後は日本のネット/モバイル・ベンチャーの立ち上げや投資、経営に携わる。2008年、頓智ドット〔株〕(現〔株〕tab)の設立直後に参画し、サービスの立ち上げ、資本提携、事業開発、海外展開などに携わる。12年、Evernote日本法人(エバーノート〔株〕)の代表に就任。

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