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原発事故によって避難を余儀なくされた人たちの「今」 〈4〉

2016年03月17日 公開
2023年01月12日 更新

藻谷浩介(日本総合研究所主席研究員)

「藻谷浩介と行く飯舘・南相馬」講演ツアー同行取材ルポ

〈3〉から続く》

 

[南相馬ソーラー・アグリパーク]
復興を担う若手人材を体験学習で育てる

 飯舘村を抜け、バスは阿武隈山地を太平洋側へと下って南相馬市に入る。海が近づくと、原町火力発電所の煙突が見えてくる。原町火力発電所も大震災と津波の被害を受け、2013年に運転を再開した。海沿いを走る送電線を支える鉄塔は津波で多くがねじ曲がってしまい、建て替えられた。

 南相馬市は、北から、鹿島区、原町区、小高区に分かれており、福島第一原発から20km圏内にある小高区は全域が避難区域に指定された。避難区域は、帰還困難地域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に分かれている。

 ツアー参加者が訪れたのは、原町区にある「南相馬ソーラー・アグリパーク」だ。運営する一般社団法人「福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会」(取材後の2016年1月に「あすびと福島」に法人名変更)代表の半谷栄寿氏は、東京電力で執行役員まで務めたあと、2010年6月に退職し、故郷の南相馬市で事業を立ち上げた。生まれ育ったのは小高区だ。「原発事故前に退職したとはいえ、東電にいた者として責任を感じる」と話す。

 南相馬ソーラー・アグリパークには、自然エネルギーによる発電を体験できる設備がある。小中学生の体験学習のためのものだ。

 1つは水力発電を体験するもの。まず、ツアー参加者の1人がハンドルを手で回して発電してみる。必死に回しても発電量はあまり上がらず、安定もしない。次に、4台の手押しポンプで水を高い位置にある容器に汲み上げる。スタッフによると、「今の子供たちは手押しポンプを知らなくて、『となりのトトロ』でサツキとメイちゃんが押しているやつだよ、と言うとわかってくれるんです」とのこと。水を汲み上げ終わると、弁を開いて、一気に落とす。その勢いで発電すると、発電量が手でハンドルを回したときよりも多く、しかも、水が流れている間は安定することがわかる。

水力発電を体験するための設備。ツアー参加者が手押しポンプを押す

 

 もう1つは太陽光発電を体験する設備。太陽光発電パネルの向きや角度を自由に変えて、発電量の変化を見ることができる。残念ながら、このときは日没の時刻で、西の地平線に向けてみたものの、発電量は0のままだった。

太陽光パネルの向きや角度を変えられる

 

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著者紹介

藻谷浩介(もたに・こうすけ)

〔株〕日本総合研究所主席研究員

1964年、山口県生まれ。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学留学などを経て、現職。2000年頃より地域振興について研究・調査・講演を行なう。10年に刊行した『デフレの正体』(角川新書)がベストセラーとなる。13年に刊行した『里山資本主義』(NHK広島取材班との共著/角川新書)で新書大賞2014を受賞。14年、対話集『しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮社)を刊行。

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