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「優等生社員のワナ」第1回 なぜ「できる人」が会社を滅ぼすのか

2016年03月10日 公開
2023年05月16日 更新

柴田昌治(スコラ・コンサルトプロセスデザイナー代表)

できる社員のワナ5
「調整能力がある」

調整能力があることも、よく言われる「できる人」の条件です。関係各所に根回しし、意見をとりまとめ、なるべく波風立てずに案件をまとめ上げる。ほとんどの人が「無用な混乱を起こさないことが、会社のため」と思ってやっていることでしょう。

ところが、それこそが大きな問題なのです。なぜなら、世の中のあらゆる物事は、混乱を乗り越えて初めてより高いレベルに到達する、という法則に則っているからです。裏を返せば、「混乱のない組織は進化しない」ということです。

混乱と聞くとネガティブな印象を持つかもしれませんが、チームや社員同士がきちんとぶつかることは、むしろ会社の進化にとってなくてはならないことなのです。一つの目標に向かって社員全員が協力するには、皆が意見を出し合い、議論して、解決策を導き出すプロセスが不可欠。率直な意見をぶつけ合えば、相手への信頼も生まれます。

「調整」というのは、そうした率直な意見を封印するということ。その場は丸く収まっても、問題は残されたまま。ますます相手への不信感が募るだけです。

それに「調整」といえば聞こえはいいですが、多くの「調整能力に長けた人」が実際に行なっているのは「問題を覆い隠すこと」にすぎません。問題が表面化しそうになったら、とりあえず叩いて頭を引っ込めさせる。根本的な課題は何も解決せず、問題を隠蔽することにもつながります。先日の建設会社の杭打ちデータ改ざんのように、いつか会社の存続を揺るがすほどの大問題を引き起こしかねません。

 

今は「優秀な社員」でも10年後、20年後はどうか?

会社の意に従い、なるべく波風を立てず、与えられた仕事を素早く、大量にこなす。このような働き方をしていても、給料はもらえますし、会社がすぐに潰れるわけでもありません。しばらくは「優秀な社員」という肩書も得られるでしょう。

しかし、10年後、20年後を考えたとき、それが本当に会社や自分のためになるのか。ひょっとしたらそれは、「自分は会社のためにこんなに尽くしているのだ」というアリバイを作りたいがためではないのか……。

そんな「できる人のワナ」からどうやって脱却すればいいのか。次回からは、その方法について詳しくお話ししましょう。

<第2回は4月10日頃掲載予定です>

著者紹介

柴田昌治(しばた・まさはる)

スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。
著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。

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