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ヒットコンテンツを最大限に盛り上げるために 〈2〉

2016年03月26日 公開
2016年04月06日 更新

安藝貴範(グッドスマイルカンパニー社長)

 

モータースポーツにまで事業拡大する理由とは?

 ――これからの成長のために、どういう戦略を考えておられますか?

安藝 海外比率を高めていくことは、いずれにしてもやらなければならないでしょう。それから、コンテンツ開発にもっと主体的に関わっていかなければならないと考えています。収益を最大化していくためには、マニアの中だけでヒットする作品ではなく、大きなヒットをする作品が生まれてこなければなりません。そうでなければ、ディズニーをはじめ、米国などの大きなコンテンツメーカーに太刀打ちできない。コンテンツ開発の面で、まだまだできることはあるのではないかと思っています。

 ――グループ会社にウルトラスーパーピクチャーズというアニメ制作会社を持たれているのは、そのためですか?

安藝 結果的にはそうですね。当社の事業はほとんどがしがらみで始めているのですが(笑)、やっているうちに見えてくることは多いです。

 ――大きなヒットを作る方法も見えてきましたか?

安藝 それは全然見えないですね(笑)。近年、大きなヒットをした作品群を見ると、ユーザーの手元に渡るまで、ほぼ誰にもヒットするとはわからなかったものばかりです。「これはどうかな?」というものに限って大ヒットしますし。過去のヒットをなぞることで、それなりのヒットを作ることもできるでしょうが、それでは大したヒットにはならない。やはり、誰かが「こうだ」と思い込んで作ったものが大ヒットしていくというのは、今後も変わらないのではないでしょうか。

 ただ、ヒットしたときに、それを受け入れる準備ができているかどうかで、ヒットのサイズに大きな差が出てきます。業界全体を挙げて盛り上げていくネットワーク作りや、社内だけでもできることは全部やるための体制作りは、ほぼできたかなと思っています。

 ――関連会社のグッドスマイルレーシングでは、本業とは関係がないようにも思えるモータースポーツをされていますが、これはどういう目的なのでしょうか?

グッドスマイル 初音ミク AMG
(C)米山舞 / Crypton Future Media, INC.
www.piapro.net directed by コヤマシゲト

 

安藝 経緯としては、これもしがらみです(笑)。SUPER GTに参戦したいのでスポンサーを探しているが、ついては「痛車」でやってみたいというチームがあったんです。「それはいいですね」と。「ついては何を貼ればいいか?」と聞かれました。ちょうど、初音ミクをみんなで盛り上げて応援しようという機運があった頃だったので、「応援されるキャラクター」である初音ミクがいいんじゃないかと思って、僕が札幌のクリプトン・フューチャー・メディアさんに行き、初音ミクのライセンスの交渉をしました。そうしているうちに、もともと主体だったところがレースから撤退してしまって、結果的に僕らがオーナーになってしまったんです。

 そういうことで始めたレース事業ですが、当社の事業全体に良い流れを作ることになったと思います。

 当社は、ユーザーに空気のように頻繁に触れてもらうことを重視しています。たとえば、Twitterを見ていると毎日「グッスマ(グッドスマイルカンパニー)」という単語が目につく、という状態になるのが理想。できるだけ多くのトピックを発信したいのです。ブログやTwitter、その他のウェブサービスを使った展開は、他の会社よりもずいぶん早くからやってきています。

 SUPER GTに参戦することで、レースは年間8戦ありますし、タイヤテストやマシンの発表など、さまざまなイベントがありますから、それだけ多くのトピックを提供できることになります。勝った、負けた、という話題は刺激的でもあります。2015年からレッドブル・エアレースの日本大会の主催を引き受けたのも、同様の理由です。

 レース事業単体でも、企業にスポンサーについていただいている他に個人スポンサー制度を作ったり、関連商品が好調に売れたりして、成立しています。

 ――モータースポーツのファンとフィギュアのファンは一致するのですか?

安藝 フィギュアのユーザーの中には、もともとカーモデルを作っていたという方もいたりして、思ったよりも違和感はないですね。最初は初音ミクが好きで観戦に来た方が、1~2年経つとレースに詳しくなって、「タイヤの選択が間違ってますよね」とか「ピットインのタイミングが2周遅い」とか指摘してくれるようにもなりました。

 ――SUPER GTのチームの監督は片山右京さんですね。

安藝 たまたまご飯を一緒に食べる機会があって、そのときに、右京さんが応援されているTAOという和太鼓を演奏するグループのライブに誘われたんです。行ってみるとなかなか楽しかったので、今度は僕が右京さんをアニサマ(Animelo Summer Live)に誘いました。ものすごい盛り上がりで、それを見た右京さんが「こんな世界もあるんだね。こういう人たちも意識していかないといけないね」みたいな話をされたので、「じゃあ、僕らのチームの監督をやってもらえませんか」とお願いして合流してもらいました。

 ――幅広く事業を展開されていますが、これからさらにやっていこうというものはありますか?

安藝 3月9日に発表したように、ソーシャルゲーム事業を始めます。第1弾が、バトルとマルチプレイが特徴の本格王道RPG『グランドサマナーズ』というゲームで、ゲームリリースは今年の春を予定しています。現在、事前登録受付中です(グランドサマナーズ公式サイト https://grandsummoners.com/ )。

 もうかなり手一杯ではあるのですが、断われない性格なので、誰かと出会って話が持ち込まれれば、また何か始めてしまうかもしれません(笑)。

 

飄々としながらも強い軸を持ったベンチャー起業家

 ベンチャー起業家といえば、高い志を掲げ、その実現に向けて邁進する、力強い印象の人が多いのではないだろうか。ところが、今回の取材で話を聞いた限りでは、安藝氏は良い意味で肩の力が抜けているように感じた。「つい」会社を興してしまい、「しがらみで」事業を拡大してきた、という話し方をする。タレント事務所として創業したものの、タレント事業が頓挫したという、大きな挫折経験があるためかもしれない。

 しかし、穏やかで脱力した口調の中に、確固たる信念が感じられる瞬間が幾度かあった。原型師の技術、製品の品質へのこだわり、業界のあるべき姿などについて話しているときだ。その信念と、それを具現化する徹底力が、グッドスマイルカンパニーの成長の原動力になっているのではないだろうか。

 

《写真撮影:長谷川博一》

著者紹介

安藝貴範(あき・たかのり)

〔株〕グッドスマイルカンパニー代表取締役社長

1971年、香川県生まれ。大阪府立大学卒業後、コナミ〔株〕、〔株〕バンプレストを経て、2001年に〔有〕グッドスマイルカンパニー(現〔株〕グッドスマイルカンパニー)を設立。同年、〔有〕マックスファクトリー(現〔株〕マックスファクトリー)と業務提携。04年、初の自社ブランドフィギュア『1/8朝倉音夢』発売。06年、『ねんどろいど』シリーズ開始。08年、マックスファクトリー商品『figma』シリーズ開始。11年、グッドスマイル上海設立。同年、〔株〕ウルトラスーパーピクチャーズ設立。14年、鳥取県倉吉市に「楽月工場」竣工。

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