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鈴木敏文、稲盛和夫……今の日本を代表する名経営者たちの仕事術

2016年04月20日 公開
2023年01月12日 更新

勝見明(ジャーナリスト)

なぜ彼らは図抜けた成果を出せているのか?

 

 経営者の役割は、目標や目的を明確に掲げ、それを確実に実現し、成功に導くことにある。「名経営者」と呼ばれる人の場合、その実現方法に個性が表われる。今回の特集では主に過去に活躍した経営者を取り上げているが、ここでは現代日本を代表する5人のカリスマ経営者にスポットを当てて、その仕事術を、彼らに直接会って取材をしてきたジャーナリスト・勝見明氏に教えていただいた。

 

鈴木敏文(セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO)

勝見明

写真撮影:鶴田孝介

 

 取材で会っていても、ひたすら自らの信念を語り、「お金のにおい」がまったくしない。「対話はなぜ必要なのか」と問えば、「対話を重ねていくとすべてのものが『浄化』されていく」といった答えが返ってくる。経営者というより、時に高僧のような印象を感じさせるのが、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長だ。実際、その経営には、流通業というより、「流通道」の追求を思わせる厳しさがある。

 最近もこんなエピソードがある。セブン&アイグループのプライベートブランドの高級版『セブンゴールド』の袋ラーメン『金の麺 塩』の発売時の話だ。新商品は開発途中で必ず役員試食が行なわれ、鈴木氏のOKが出ないと発売できない。しかし、新商品の多さから、『金の麺 塩』については試食が発売直前になってしまった。

 食べてみると、麺の完成度が満足できるレベルに達していなかった。常に顧客の立場で考える鈴木氏は、発売当日、6,000万円の損失が出るのを承知で、全国1万8,000店の店頭から商品をすべて撤去させて廃棄し、開発をやり直させた。

 普通の経営者なら、とりあえず発売し、次の生産ぶんから改良を考えるだろう。それに対して鈴木氏は、「顧客の満足」というあるべき姿を描いたら、一切の妥協を排除し、徹底して実行する。それが鈴木流の「徹底の仕事術」だ。

「お客様のロイヤリティ(継続して利用しようという度合い)を得るには、あらゆる努力の積み重ねが必要です。しかし、一度でも失望されれば、失われてしまいます。発売当日でもレベルに達していなければ全品廃棄する。そこまでして初めて、お客様の支持が得られるのです」と鈴木氏は言う。

 目先の損益より、あるべき姿を追求し、軸は絶対にブレない。セブン-イレブンが全店平均日販で他チェーンに12万円以上の差をつけるのも「ブレない軸」と「徹底の仕事術」の成果なのだ。

 

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著者紹介

勝見 明(かつみ あきら)

1952年、神奈川県生まれ。東京大学教養学部中退。経済・経営分野を中心に執筆活動を続ける。各種の企業事例の「成功の本質」を見抜く洞察力に定評がある
近著に『石ころをダイヤに変える「キュレーション」の力』(潮出版社)がある。

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