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今の日本で「イノベーション」は生まれるか?

2016年09月15日 公開
2023年01月16日 更新

高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)

「アンバサダー」がヒットした意外な理由とは?

 相手の「心の問題まで考える」ことは、これからのビジネスに欠かせないと、高岡氏は語る。

「新興国の市場では、顧客の問題を『モノ』で解決してきました。しかし、成熟した市場では便利なモノが世の中にあふれ、モノで顧客の問題を解決するのが難しくなる。そこで、ヒントになるのが、フィリップ・コトラー氏の提唱する『自己実現を目指すマーケティング』です。

 ネスレでは今、コーヒーマシンを無料でオフィスに設置し、淹れたてのコーヒーを楽しんでもらう『ネスカフェアンバサダー』というサービスを展開しています。申し込みや代金回収をしてもらう『アンバサダー』を

介し、オフィスで働く人には1杯約30円でおいしいコーヒーを飲んでもらい、我々はそのコーヒー代によって収益を得るビジネスですが、1つ、忘れてはいけない側面があります。これを導入したことで、オフィスの雰囲気が良くなったと、導入役のアンバサダーが社員に感謝されるケースが多いのです。

 人間の心理には、人の役に立ちたいという欲求があります。この仕組みは、顧客や私たちだけでなく、アンバサダーにも心理的な利益をもたらしているわけです。アンバサダーの数は現在、25万人を超えています」

 ただ、顧客自身が自己実現のために何を欲しているのかを把握しているとは限らない。

「高度経済成長期は、顧客が認識している問題を解決することで良しとされていました。今後は、顧客がまだ気づいていない問題を解決する『イノベーション』が必要です。『そうそう、こんな商品やサービスが欲しかった!』と言ってもらえるよう、顧客自身の潜在的な欲望を形にするマーケティングをしなければ生き残れません」

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作業に追われていては考えは深められない >

著者紹介

高岡浩三(たかおか・こうぞう)

ネスレ日本〔株〕代表取締役社長兼CEO

1960年、大阪府生まれ。83年、神戸大学経営学部卒業後、ネスレ日本〔株〕に入社。各種ブランドマネージャーを経て、「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させる。後に『ネスカフェ アンバサダー』など新しいビジネスモデルの構築を通じて、高利益率を実現している。著書に『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)など。

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