THE21 » キャリア » 今の日本で「イノベーション」は生まれるか?

今の日本で「イノベーション」は生まれるか?

2016年09月15日 公開
2023年01月16日 更新

高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)

作業に追われていては考えは深められない

 高岡氏は、2010年11月、代表取締役社長兼CEOに就任した際、スイス本社で居並ぶ役員たちにこう宣言した。

「私は日本で着実に売上げと利益を上げるモデルを作ってみせる。それがネスレジャパンの仕事だと考えています」

 市場の縮小は先進国の宿命。ヨーロッパ諸国に先駆けて人口減少が進む日本で「先進国のマーケティングモデル」を作ることができれば、ネスレ本社にとってもバリューを提供できると考えたからだ。そのために高岡氏は、「根本的な発想の転換」が必要だと説く。

「たとえば、ボリュームを追うのをやめ、むしろ値段を上げながら価値をさらに上げていく視点で市場の変化を追ったことで、人口は減っているのに世帯数が激増していることに気づき、それを好機と捉えて新しいビジネスモデルを生み出せたのです。

 そもそも日本は、20世紀型のビジネスモデルにとらわれがちです。高度成長期の日本は、毎年人口が100万人増える新興国でした。労働コストは安く、まじめに働く国民性。だからいい製品を安価で作り、外国勢に勝つことができた。しかし、状況が大きく変わった今、経済界がいまだに『モノづくり、コトづくり』を提唱しているのは、感覚がずれていると思います。それも、高度成長時代に勢いがあった日本が、バブル崩壊後に『なぜ』こうなってしまったかを誰も考えていないからでしょう」

 では、本質を考え抜くには、どうすればいいか。高岡氏はいくつかのアドバイスをくれた。

「私が社会人になるときに『学生時代の勉強にはすべて解答例があるが、仕事には答えがない。だからこそ自分の頭で考え続けることを忘れるな』とアドバイスしてくれた人がいました。今は私も、社員にこの言葉を伝えています。要するに、上司に言われても、上司や先輩が上手くいった方法があっても、もっと上手くいく方法はないかと考え続けることが大事なのです。

 また、問題を本質的に考えるためには、もっと考える時間を増やす必要があるでしょう。日本のビジネスパーソンは作業に追われすぎです。そして、与えられた課題を絶対に達成する強い意思があってこそ、深くまで考え抜けるのだと思います」

 

『THE21』(8月号より)

 

取材・構成社納葉子 写真撮影:清水 茂

著者紹介

高岡浩三(たかおか・こうぞう)

ネスレ日本〔株〕代表取締役社長兼CEO

1960年、大阪府生まれ。83年、神戸大学経営学部卒業後、ネスレ日本〔株〕に入社。各種ブランドマネージャーを経て、「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させる。後に『ネスカフェ アンバサダー』など新しいビジネスモデルの構築を通じて、高利益率を実現している。著書に『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)など。

THE21 購入

2024年5月号

THE21 2024年5月号

発売日:2024年04月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

非正統派マーケターが導き出したUSJ成功への道

森岡 毅(ユー・エス・ジェイCMO)

即断即決せず 「優柔不断になる」 勇気

川村元気(映画プロデューサー)

「貪欲なインプット」が、思考スピードを極限まで高める

松村厚久(ダイヤモンドダイニング社長)
×