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星野リゾートの現場力(10)界 松本の「松本美人」 

2017年02月17日 公開

星野佳路(星野リゾート代表)

圧倒的な顧客満足度を誇る温泉とは?

日本を代表するリゾート運営会社・星野リゾートでは、「遊び」や「楽しみ」の中に仕事のヒントを見つけたり、逆に仕事をきっかけとした趣味を楽しんだりしている社員が多いという。本連載では、そのような「遊びと仕事」の融合の事例を、代表の星野佳路氏のコメントとともに紹介。第10回は、「星野リゾート 界 松本」から、入浴指南などの企画で温泉の満足度を上げている「温泉ソムリエ」のスタッフの取り組みをリポート。《取材・構成=前田はるみ》

 

温泉の効果をもっと高める入浴法とは?

長野県・浅間温泉に佇む温泉旅館「星野リゾート 界 松本」。温泉旅館での楽しみといえばお風呂だが、ここでは、内風呂や露天風呂など8種13通りの大浴場が楽しめることで評判だ。ただし、人気の秘密はそれだけではない。よりリラックスできる温泉入浴の仕方を旅館スタッフが指南してくれるのである。

入浴を指南するのは、温泉ソムリエの資格を持つ星恵理子氏。入浴中の深呼吸と水分補給がコツだそうだ。

「お湯に浸かりながら深呼吸すると、浮力によって筋肉が緩み、リラックス効果が高まると言われます。また、入浴前後だけでなく入浴中も水分補給を心がけることで、長く温泉入浴を楽しんでいただくことができます」

風呂上がりの時間も楽しんでもらうため、この夏からは、松本の伝統工芸品「姉様人形」にちなみ、「松本美人」を目指すプログラムを実施している。姉様人形の特徴であるまとめ髪に着目し、髪の長さに応じたまとめ髪の作り方を動画で紹介するほか、髪飾りを販売している。

「単に立派な大浴場があるというだけでなく、ハードとソフトの両面から松本ならではの現代湯治や、滞在の楽しみ方を提案したいと考えました」と星氏。これらの施策が奏功し、界 松本の大浴場の顧客満足度は、全国に十三施設ある界ブランドのなかでも圧倒的な高さを誇る。

 

「転地効果」を最大化できるサービスを追求

予防医学による地方創生に興味を持ち、大学では温泉について勉強したという星氏。昨年4月、星野リゾートでも指折りの温泉施設を持つ界 松本に配属されたのを機に、通常のサービス業務に加え、「大浴場の魅力化」を考えるプロジェクトに手を上げ、抜擢された。

星氏はなぜ、顧客の心を捉えるサービスを生み出せるのか。
彼女自身、大の温泉好きであることは言うまでもない。プライベートで訪れる日帰り温泉では、温泉成分が書かれた「温泉分析書」を必ず読み、泉質に合った入浴法の研究にも熱心だ。
 また、その土地の暮らしで感じた土地の魅力を、旅館のサービスや入浴法に反映させるのも彼女のやり方だ。たとえば松本のように標高が高い土地では、運動時の消費エネルギーや空気の感じ方も違ってくるといい、こうした特徴が入浴法にも反映されているのだ。「答えは現場にあります。その土地での暮らしを楽しむことで、答えを見つけられると思っています」と言う。

当面の課題は、「松本美人」のプログラムを発展させ、大浴場の満足度をさらに高めることだ。「別の場所を訪れることで心がリフレッシュすることを、『転地効果』と呼びますが、転地効果こそが旅の醍醐味でもあると思います。転地効果を最大化できるサービスを今後も提供していきたい」と意気込みを語った。
 

 

星野佳路氏の視点――専門分野とキャリアの考え方

(以下、星野佳路氏談)

星さんとは先日、温泉大浴場の魅力化について意見交換しました。温泉大浴場は、温泉旅館ブランドである「界」にとって魅力の柱となる要素です。その温泉大浴場を、今一度進化させるための社内プロジェクトを現在進めており、界の中でも顧客満足度が圧倒的に高い「界 松本」を視察してきたのです。

実を言うと、「界 松本」は再生を委託された施設であり、自分たちが設計したのではないこともあって、施設自体が優れているとはどうしても思えませんでした。それでも圧倒的に高い顧客満足度を得ている理由を、知りたいと思ったのです。

彼女と話して感じたのは、「顧客に大浴場を楽しんでほしい」という熱意のすごさです。大浴場のことを考え抜いているからこそ、大浴場が抱える課題も完璧に把握しているようでした。

彼女が指摘したのは、「温泉旅館に来た人が、温泉に入る時間が短すぎる」という点です。言われてみれば確かにそうで、私も温泉には少し浸かるだけで、すぐに出てきてしまいます。温泉に浸かる時間が短ければ、温泉の印象は強く残らず、満足につながらないのも当然です。

温泉に長く浸かってもらうことが、「温泉旅館に行ってきた感」を高めるには重要だというのが彼女の考えでした。そのための仕掛けが、入浴中の水分補給というわけです。

湯上がり処に水が設置されている施設は珍しくありませんが、彼女の提案がユニークなのは、浴室内にもペットボトルの水を用意しておくことでした。入浴中の人が飲むのに冷たすぎないよう、水の温度調節も抜かりありません。水分を補給しながら長く湯に浸かってもらうことで、ゲストに大浴場を楽しんでもらおうというわけです。そうした熱意や細やかな配慮がゲストに伝わり、大浴場を含めた界 松本の施設全体の満足度を高めていると思いました。

星さんと話しながらもう一つ気づいたことは、地域によって気候も泉質も違うため、界として温泉の楽しみ方を一概には提案できないということです。たとえば、阿蘇にある温泉と津軽にある温泉では、入浴時のコンディションも体感する寒さも違います。だからこそ、星さんのような現地スタッフが、その土地の気候や泉質に合った温泉の楽しみ方を提案できることが最も重要なのかもしれません。

 

将来を考え、あえて専門分野から外すことも

星さんのように、好きなことを追求して自分の専門性を持つことは、本人とっての強みになります。ただ、長い目で見れば、「自分の専門はこれ」と決めつけずに、その分野で得た知識やノウハウを、別の分野にも生かしていくことが大切だと思います。とくにスキー場で働くスタッフには、スキーやスノーボードが好きだからスキー場で働いている、という人が多いのですが、ある程度の年数に達したら一度スキー場を離れ、培った経験を生かして次のステップを目指してほしいと思っています。

大事なことは、その人にとって何が能力であり、将来の競争力になるかということです。専門性を極める中で培った顧客志向の姿勢や、数字を読む力、試してみる行動力などは、経営やマネジメントの分野にも生かせるはずです。私たちはそうした能力を評価します。

活躍の場を広げることをスタッフに期待するのは、そうすることで収入面での充実も期待できるからです。優秀なスタッフに会社で長く働いてもらうには、楽しく仕事するだけでなく、給与が上がり、生活が豊かになっていくことも大切です。そのためにも、現場で培った専門性を幅広い分野に生かし、活躍の場を広げていってくれることを期待しています。

 

《『THE21』2016年12月号より》

iyashi

著者紹介

星野佳路(ほしの・よしはる)

星野リゾート代表

1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発(現・JALホテルズ)に入社。シカゴにて2年間、新ホテルの開発業務に携わる。89年に帰国後、家業である㈱星野温泉に副社長として入社するも、6カ月で退職。シティバンクに転職し、リゾート企業の債権回収業務に携わったのち、91年、ふたたび㈱星野温泉(現・星野リゾート)へ入社、代表取締役社長に就任。

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<連載>星野リゾートの現場力

星野リゾート/星野佳路(星野リゾート代表)


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