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【今週の「気になる本」】『きよのさんと歩く大江戸道中記』

2017年02月09日 公開
2020年11月25日 更新

金森敦子著/ちくま文庫

思いのほか快適そうな江戸時代の旅

時は文化4年(1817年)、出羽・鶴岡の裕福な商家のおかみであるきよのさんは、子育てもひと段落ついて余裕もできてきたということで、「お伊勢参り」に出発する。

単に伊勢まで行って戻ってくるだけではつまらないので、途中、日光や江戸、京などにも立ち寄り、結局100日にも及ぶ大旅行に。その克明な旅日記が残っており、それを作家の金森氏の解説付きでたどっていくのが本書だ。

江戸時代後期の旅の様子がわかって非常に面白いのだが、なにより驚かされるのが、当時の旅のインフラが思いのほか整っていたこと。
実家から送金してもらったお金を旅先で受け取れるのは、まさにATM。おみやげを飛脚で地元に送る、宅急便みたいな仕組みもある。

江戸時代と言うのはなかなかにすごい時代だということを改めて知った次第だ。

そして旅の様子もまさに現代と一緒。
名所観光はもちろん、ショッピングに観劇、グルメなど。ここのまんじゅうはうまいだのまずいだの、ここの旅館はよかっただのダメだったなどといちいち記されているのも面白い。
これもまた、グルメサイトや旅行サイトの口コミと同じだ。

もちろん、こうした仕組みを使うことができたのは、彼女が裕福だったからということではある。また、女性が関所を抜ける大変さなど、当時ならではの苦労もうかがい知れる。だが、全体から受ける印象は、当時も今と同じように旅を楽しむ女性の姿だ。

それが伝わってくるのも、彼女が旅の記録を詳細に残してくれたからこそ。当時の旅の様子がわかるまさに一級品の資料であり、紀行文としても楽しめる。
お勧めです。


執筆:Y村(「紀行」担当)

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