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「暴言王」トランプ氏の英語はなぜ米国人の心を捉えたのか?

2017年02月13日 公開
2023年02月07日 更新

浅川芳裕(農業ジャーナリスト)

浅川芳裕

まだまだある! トランプ氏の特徴的な話術

(1)繰り返し

Look, the problem is we need toughness. Honestly, I think Jeb is a very nice person. He's a very nice person. But we need tough people. We need toughness. We need intelligence and we need tough.

そう! 問題は、我々にはタフさが必要だということだ。率直に言って、ジェブはとても良い人だと思う。彼はとても良い人だ。しかし、我々に必要なのはタフな人たちだ。タフさが必要なのだ。我々には賢さが必要だし、タフさが必要だ。(2015年12月15日、CNN共和党討論会)

「タフ(toughness、tough)」はトランプ氏がよく使う単語。ここでは4回繰り返している。同じ単語を繰り返すと聞き手の脳裏に刻み込まれ、その単語に親近感を覚えるようになる。広告でもよく使われる手法だ。

 

(2)あえて明言しない

We have a president who doesn't have a clue. I would say he's incompetent,but I don't want to do that because that's not nice.

我々の大統領は何をやっているのか自分でも見当がついていない。無能だと言いそうになるが、そうは言うまい。感じが悪いからね。(2016年8月6日、CNN共和党討論会)

 誰かを批判するとき、その相手を明確に名指ししないことで逆に際立たせる「陽否陰述」のテクニックもよく使う。ここでは、「a president」はオバマ氏のことだと誰にでもわかるのだが、名前は出さない。しかも、「そうは言うまい」と言うことで、それが一番言いたいことだと暗示している。そのうえさらに、「言わない自分は良いヤツだ」ということまで付け加えることを忘れない。incompetent(無能だ)は、政治家が論敵を批判するときによく使う単語。トランプ氏はより簡単な「stupid」を代わりに使うことも多い。

 

(3)対立候補にあだ名をつける

Crooked Hillary has continually placed Washington D.C. special interests' priorities over the interests of everyday Americans.

「心が歪んだヒラリー」は長年、米国人一般の利益よりワシントンに巣食う既得権益を優先させてきた。(公式選挙キャンペーンサイト)

「心が歪んだヒラリー」と繰り返し呼ぶことで、聞き手はヒラリーを偏見を持って見るようになり、「ヒラリー+犯罪」でネットを検索したりするようになった。Crookedは、文脈によっては「身体が歪んだ(体調が悪い)」というイメージもあるので、健康問題を抱えたヒラリー氏にはいっそう効果的な悪口だ。共和党内の対立候補テッド・クルーズ氏には「Lyin' Ted(嘘つきテッド)」というあだ名をつけた。キリスト教右派からの支持を受けるクルーズ氏の信仰心は嘘であるというイメージをつけるためだ。支持者と一緒にリズム良く唱和できるよう、綴りは「Lying」ではなく「Lyin'」だと念押ししていた。

 

《『THE21』2017年2月号より》

著者紹介

浅川芳裕(あさかわ・よしひろ)

農業ジャーナリスト

1974年、山口県生まれ。カイロアメリカ大学(AUC)中東史学科、カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。英語、アラビア語通訳、ソニー中東新興市場専門官、『農業経営者』副編集長を経て、独立。農業経営コンサルタント。自身も田畑山林を保有、マネジメントする。『農業ビジネス』編集長、ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。著書はベストセラー『日本は世界5位の農業大国』(講談社+α新書)、『TPPで日本は世界一の農業大国になる』(ベストセラーズ)、『日本よ!《農業大国》となって世界を牽引せよ』(共著、ヒカルランド)など多数。訳書に『国家を喰らう官僚たち アメリカを乗っ取る新支配階級』(新潮社)。近著に『ドナルド・トランプ 黒の説得術』(東京堂出版)がある。

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