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事業を抱え込むのは経営者の「エゴ」である

2017年02月08日 公開

鷲見貴彦(ベンチャーバンク会長)

 

新規事業を生み出し続ける方法とは?

 

 ――御社の特徴として、軌道に乗った事業を分社化するということがあります。『LAVA』は〔株〕LAVA Internationalに、『FEELCYCLE』は〔株〕FEEL CONNECTIONに、『まんが喫茶ゲラゲラ』は〔株〕ソーエキサイトに、それぞれ独立しています。しかも、ベンチャーバンクの子会社という形ではないということですね。子会社化ではない分社化というのはイメージがつきにくいのですが……。

鷲見 それは、子会社化するのが当たり前だと思っているからですよね。なんのために子会社化するのか、考えたことはありますか?

 ――まず、連結決算の対象にして、親会社の売上げや利益を大きくするため、ということがあるかと思います。

鷲見 つまり、別会社にしたほうが自由に動けるので分社化するのだけれども、支配下には置くということですよね。それって支配欲じゃないですか。経営者のエゴだと思いますよ。

 ある調子の良い事業があるとしましょう。その事業をしている社員は、自分たちだけで事業を続けるのと、相性が良くてシナジー効果が発揮できる他社と一緒に仕事をするのと、どちらを喜ぶか? それは後者でしょう。でも、経営者のエゴで支配下に置いていると、他の事業会社と提携したり、場合によっては売却したりしたほうがその事業が拡大するとわかっていても、手放すことができません。つまり、社員の幸せにならないわけです。我々の基本路線は、軌道に乗った事業を分社化して、相性の良い他の事業会社と提携をして、さらに自由に発展させていくことなのです。

 ――子会社にしないということは、分社化したグループ会社への出資は誰がして、誰が株主になっているのですか?

鷲見 ベンチャーバンクが出資すると子会社になってしまうので、私個人です。

 ――ベンチャーバンクから分かれたグループ会社の経営判断は、ベンチャーバンクからまったく影響を受けない?

鷲見 そうです。ベンチャーバンクはインキュベーションに特化しています。つまり、新しい事業を見つけ出し、いち早く軌道に乗せるところまでが、ベンチャーバンクの機能です。

 ――人事交流はあるのでしょうか?

鷲見 総合職については、教育のために、ローテーションでグループ各社を経験してもらっています。現場でサービスを提供する専門職については、募集をかけて、希望があれば異動してもらうこともあります。

 ――せっかく軌道に乗った事業を手放すということは、売上げや利益を追求することがビジネスの目的ではないということでしょうか?

鷲見 経営ですから、当然、会社の規模や売上げは追いかけます。また、ビジネスをしていて赤字を出すのは犯罪のようなものだと思います。犯罪というか、意義がない。利益が出るということは、お客様に「良いサービスだ」と支持されていることの証明ですから。

 ですから売上げや利益を出すための工夫はしますが、それはあくまで手段だということです。手段を目的化してはいけません。目的は、社員をどれだけ幸せにできるか、社員がお客様や社会にどれだけプラスの影響を与えられるか、ということです。

 ――事業を抱え込まないというのは、非常にユニークな経営観だと思います。その考え方はどこで身につけられたのでしょうか?

鷲見 ヨガの哲学から学びました。

 ホットヨガの事業を始めたときは、ただビジネスの1つだと捉えていたんです。ところが、インストラクターの採用面接をしていると、会員の方が「ヨガで人生が変わった。だから、インストラクターになって、今度は人生を変える側になりたい」と大勢いらっしゃった。それで、「ヨガってすごいんだな」と思って、自分で瞑想をしたり、合宿に参加したり、ヨガの哲学を学んだりしました。そして、ヨガの哲学をビジネスに融合させることを考えるようになりました。

 ヨガというと、ポーズを取って身体を柔らかくするものだと思っている人もいるのですが、全然そういうものではありません。基本的には哲学です。ポーズを取るのは「動く瞑想」と呼ばれています。

 ――ベンチャーバンクは新規事業を生み出し続ける会社だということですが、これはかなり難しいことだと思います。どのようにして実現しているのでしょうか?

鷲見 当初は苦労しましたが、今では次々と生み出せるようになりました。美容・健康の分野に絞り込んだからです。それ以外の事業もチャンスがあればやりますし、教育分野にも参入していますが、1つの分野の中で多方面に展開するほうが効率的です。

 ちょうど今、新規で立ち上げている事業も、成功したフィットネス事業を別の形にアレンジしたものです。柳の下にドジョウは1匹じゃなくて、5匹も6匹もいるのです。

 ――ご著書には会員制ビジネスに注力しているとも書かれています。

鷲見 テクニック的にはそうですね。勝ちパターンです。

 会員制ビジネスは、歴史的に見ると最近のものなのです。会員制にしたほうがいいのに、まだ都度払いのままのビジネスは数多い。だから、会員制に変えるだけで新業態が生まれます。

 とくに、フィットネスやマッサージのように、お客様にとって続けたほうがいいサービスは、都度払いよりも会員制のほうが、定期的に通うモチベーションが高まるので適しています。ビジネスとしても、生涯客単価が高くなります。

 ――美容・健康分野のビジネスと会員制とは相性が良いということですね。

鷲見 そうです。当社の事業はすべて会員制です。

 ――新規事業がうまくいくかどうかの判断は、どれくらいでされるのですか?

鷲見 事業によって違います。また、同じ事業でも、担当者によって業績が上向いたり、そうでなかったりということもありますから、「今の数字が赤字だからやめる」という判断はしません。適任者が現われるまで辛抱強く待つこともあります。逆に、黒字であっても、当社がやることに意義が見出せなくなったら、続けません。

 ――新規事業の担当者は、どのように決めているのですか? やりたい人が手を挙げて?

鷲見 挙手のこともりますし、指名のこともあります。

 基準としては、1つは、どこかで成果を上げたことのある人。成果が出せない人は、どこに行っても成果を出せないのです。小さな組織においてでも成果を出したことのある人は、別の事業でも成果を出せます。

 ――若い人に任せることも?

鷲見 あります。ただ、当社のサービスは現場で人をマネジメントしないとできないものなので、人をマネジメントできることは最低限必要です。軋轢を生む人や、頭が良くても人に嫌われるようだとうまくいきません。

 

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著者紹介

鷲見貴彦(すみ・たかひこ)

〔株〕ベンチャーバンク代表取締役会長

1959年生まれ。岐阜大学教育学部卒業後、名古屋の出版社に入社し、コンピュータ部門に配属。89年、〔株〕船井総合研究所に転職し、経営コンサルタントとして数々の実績を残す。 90年にベンチャーバンクの前身となる〔有〕トータルアクセスカンパニーを設立。94 年に〔株〕船井総合研究所を退社。その後さまざまな新規事業を立ち上げ、2005 年、〔株〕ベンチャーバンクを設立。インキュベーション・カンパニーとして、『LAVA』『FEELCYCLE』『まんが喫茶ゲラゲラ』『養蜂堂』『ゆずりは』『ファーストシップ』『REAL FIT』『Re:Bone』『mana Labo』『泰氣堂』『DanjoBi』『プラチナボディ』『天空の庭 天馬夢』『JUMP ONE』などの事業を創出する。著書に『i人経営 瞑想から生まれた新ビジネスモデル』(日経BP コンサルティング)、『僕の会社にもっと来なさい』(マガジンハウス)などがある。

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