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FREETELは「日本のモノ作り」で世界一のメーカーになる

2017年02月25日 公開
2023年01月23日 更新

増田 薫(プラスワン・マーケティング代表)

増田薫

日本のITサービスを進化させたい

 ――創業の経緯についてもお教えください。

増田 デルにいたとき、ひょんなことから携帯電話事業を立ち上げることになりました。当初は1人チームだったので中国の製造工場を見ることもできたのですが、行ってみると、日本メーカーの端末も海外メーカーの端末も同じ工場の中で、同じように作っているんです。私は「モノづくり日本」を信じていたのに、これではとてもそうは言えないと思いました。それで、「モノづくり日本」をイチからやり直すために、自分でメーカーを立ち上げようと思ったのです。

 ――FREETELの端末の製造も、中国の工場に委託されているのですよね?

増田 委託とは言っても、日本人の社員が貼りついて見ています。作業指示書も全部、当社の社員が作っています。

「格安スマホ」なんていう言葉が世の中では使われていますけれども、当社のモノづくりはいっさい妥協をしていません。日本では安く思えるかもしれませんが、世界では標準価格ですよ。

 ――SIMフリーの端末を作られた理由は?

増田 デルでは日本の携帯電話事業の責任者として海外に行く機会が多くあったのですが、その間の通信費が10万円くらいしたんです。海外の人たちは「空港でSIMを差せばいいじゃないか」と言うのですが、「SIMって何?」という感じでした(笑)。

 それで、SIMを買って差してみたのですが、使えなかった。SIMロックがされていましたから。SIMロックとは不便なものなんだなと、そのときに初めて気がつきました。そこで、SIMフリーの製品やサービスを日本で提供することにしたのです。FREETELというブランド名は、SIMフリーの携帯電話という意味です。

 日本でもSIMカードは発売されていましたが、SIMフリーの端末はないという不可解な状況が続いていました。本当にMVNOのマーケットを作ろうと思ったら、SIMだけでは電話がかけられないので、端末が絶対に必要ですよね。端末のメーカーとして起業したのには、マーケットを作るためという理由もあります。ハードウェアは船のような存在です。ハードウェアがあるから、その上にSIMが載せられる。アプリなどで、サービスも載せられます。

 それに、ハードウェアがあればブランドを作りやすい。私はパソコンのソフトウェアの会社とハードウェアの会社の両方を経験しているのでよくわかりますが、ハードウェアは花形なんです。家電量販店でも目立つところに置いてあるのはハードウェアで、ソフトウェアは離れたところに置いてあるか、置かれてさえいないことも多い。これも端末のメーカーとして起業した理由ですし、海外展開を端末から始めている理由でもあります。

 ――日本での今後の展開として考えていることはありますか?

増田 端末とSIMとアプリをすべて手がけているので、それをもとにITサービスを提供することを当初から考えています。

 アフリカのガーナと日本と、どちらのほうがITサービスが進んでいると思いますか?

 ――当然、日本だと思っていますが……。

増田 全然違いますよ。ガーナでは携帯電話での送金なんて、ずっと前から簡単にできました。中国に対しても、日本は5年くらい遅れていると思います。このままでは2020年の東京オリンピックが恥ずかしくて仕方がない。この状況を変えたいんです。

 今、具体的に考えているのはFinTechです。居酒屋で「割り勘ね」と言ってお金を数える時代は終わりますよ。確実にキャッシュレスに向かっていますから。海外に行くときも、キャッシュレスになれば、空港で両替をする必要がなくなります。

 ――海外展開についての今後の展望は?

増田 海外展開のフェーズ1は悪くなかったと思います。まず、中南米での展開を狙いました。中南米のマーケットではキャリアが強くて、キャリアに採用していただいて、キャリアの店舗で販売してもらわないと、端末が売れないんです。そして、キャリアの要求が厳しい。その要求に応えられるかどうかを試すために、あえて中南米にチャレンジしました。その結果、アメリカ・モビルという世界第4位のキャリアと契約し、端末を卸しはじめることができました。

 これで当社のモノ作りのレベルに確信が持てましたから、東南アジアや中東、アフリカなどのマーケットでの展開も始めました。これらはオープンマーケット、つまり家電量販店などで端末を買う市場です。2018年の海外での端末販売数は700万台を目指しています。

 フェーズ2では、世界第3位、第2位、さらに第1位のキャリアとの契約を目指していきます。これが大きな目標です。

 ――海外展開のための人材の採用もしているのですか?

増田 最初からしています。当社の取締役にイアン(・チャップマン・バンクス)という英国人がいるのですが、モトローラの元副社長で、私のデル時代の上司でもあります。モトローラが伸びてノキアに迫った時期に携帯電話事業を担当していましたから、人脈も含めて、大いに力になってくれています。他にも、サムソンやノキアからも人材が来てくれています。

 ――FREETELが他のMVNOとまったく違う企業だということが、よくわかりました。ありがとうございました。

 

「モノづくり日本」を再び世界に

 FREETELは、どうも他のMVNOとは違うらしい。通信費の安さをPRしているのは同じだが、自社で端末を開発し、今年は店舗の展開までするという。とにかく通信費を安くしようとするなら、端末の開発や店舗に資金を投じることはしないほうがいいのではないか。

 そうした疑問を持ってインタビューに臨んだが、増田氏の考え方はまったく別の次元にあることがわかった。印象的だったのは、「本気でマーケットを拡大しようとしていないMVNOに負けるわけにはいかない」という言葉だ。たまたま吹いてきた追い風に乗ったわけではなく、自らSIMフリー端末を世に出して風を吹かせた。その自負が感じられた。

 ベンチャーにとって、インターネットサービスに比べると多くの資金が必要で、ノウハウの蓄積も必要な製造業は、ハードルが高いだろう。しかし、戦後、世界を席巻した日本メーカーは、多くがもとはベンチャーだった。大企業になることで失われがちな日本のモノ作りの精神は、ベンチャーにこそ、純粋な形で継承できるのかもしれない。

 

《写真撮影:まるやゆういち》

著者紹介

増田 薫(ますだ・かおる)

プラスワン・マーケティング〔株〕代表取締役

1972年、東京都生まれ。ソースネクスト〔株〕、Lenovo Japan、Dell Japanで営業部門の責任者を歴任。2012年、プラスワン・マーケティング〔株〕を起業。

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