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星野リゾートの現場力(14)界 伊東の「椿の間」

2017年05月01日 公開
2023年05月16日 更新

星野佳路(星野リゾート代表)

星野佳路氏の視点――個々の「働きがい」に組織が柔軟に対応する

 

(以下、星野佳路氏談)

誰しも、いつか会社を辞めるときが必ずやってきます。「この会社で働いて、自分のためになった」と思ってもらえる会社にしたい。これは我々の組織に対する一番の思いです。

星野リゾートはもともとリクルートで大変苦労してきました。観光業の特性上、地方勤務が大半ですが、東京を離れることに抵抗感のある人は多いんです。地方が好きで、地方での生活を楽しんでくれるスタッフは、我々にとって貴重な存在です。人材確保の難しさを乗り越えるために、この思いを実現していかなければならなかったのです。

では、会社での時間を有意義に役立ててもらうために、どうするのか。
働きがいは、人それぞれです。管理職を目指す人もいれば、現場で接客のプロを目指す人もいる。たくさん稼ぎたい人もいるだろうし、キャリアに必要なスキルを高めたいという人もいるでしょう。大事なことは、それぞれが感じる働きがいに会社側がどれだけ柔軟に対応できるかです。

私たちが管理職を立候補制にしているのも、そのような理由からです。意欲がある人には、チャンスが与えられるようにする。また、配偶者の転勤の都合でその土地を離れなければならない人には、自宅でできる予約受付業務も用意しています。ライフステージの変化や、やりがいを感じるポイントの違いにいかに柔軟に対応できるか。スタッフに会社での時間を楽しんでもらうには、大事なことだと思っています。

 

経営者に届く情報は断片的で偏っている

私は社内をブラブラと歩き回ったり、社員に話しかけたり、また全国の施設にもよく出掛けていくので、そうした折にスタッフが楽しんで仕事をしているかどうかを見ることはあります。もちろん、自分で見たり聞いたりすることは大事だと思いますが、私が見たものが必ずしも本当の姿ではないとも思っています。同様に、自分に伝えられる情報も、必ずしも公正ではないとも思っています。

自分の感性を信じていないわけではありません。ただ、私のところには特殊な情報しか入ってこないと思っているんです。経営者や総支配人が見えている情報は、あくまで断片的で、偏ったものです。都合のいい情報や、親しい人からの意見しか届かなかったりします。たまたま得られた情報にもかかわらず、全体を反映していると思い込んで判断すると、必ず間違えます。経営者や上司が犯すミスジャッジの大半は、偏った情報が原因です。

正しい情報が入ってくるためにも、私がこの連載で何度も話してきた「フラットな組織」が重要です。言いたいことを、言いたい人に言える。そんな環境でこそ、正しい議論が生まれます。

私たちはまた、スタッフが仕事にやりがいを感じているかを把握するために、年1回、社員満足度調査を実施しています。統計的な手法を取り入れた調査は、客観的に判断するうえで有効な手段です。一方、そこまでする必要のない場合は、できるだけ多くの人の意見を聞いたり、賛成と反対の両方の意見を聞いたりすることで、客観的な判断に近づけるようにしています。

社内だけで議論していると、意見が偏ることがあります。以前、温泉旅館の大浴場の改善策を議論したとき、社内では自分たちに都合の良い意見しか出ませんでした。たとえば、いくら素晴らしいアイデアでも、坪単価がかかり過ぎるアイデアは、誰もが「あり得ない」と思っているので提案すらされません。そういうときは、外部の人の意見を聞くと、いかに自分たちが固定観念の中に閉じこもっていたかがわかるものです。

 

《『THE21』2017年4月号より》

著者紹介

星野佳路(ほしの・よしはる)

星野リゾート代表

1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発(現・JALホテルズ)に入社。シカゴにて2年間、新ホテルの開発業務に携わる。89年に帰国後、家業である㈱星野温泉に副社長として入社するも、6カ月で退職。シティバンクに転職し、リゾート企業の債権回収業務に携わったのち、91年、ふたたび㈱星野温泉(現・星野リゾート)へ入社、代表取締役社長に就任。

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