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「耳の痛いこと」を伝えて部下と職場を立て直す技術

2017年02月22日 公開

中原 淳(東京大学准教授)

まったく新しい人材育成法「フィードバック」とは何か?

 年上の部下、育たない若手……多様化する職場の人材に対応できず、部下育成がおろそかになっている現代のマネジャーたち。何とかしなければという焦りはありつつも、自らもプレイングマネジャーとして実績を求められ、部下を指導している時間がない……。

 そんなマネジャーの悩みを解決する、日本の企業ではあまり知られていない人材育成法、その名は「フィードバック」――そう主張するのは、人材開発の研究に長年携わってきた東京大学准教授の中原淳氏。新著『フィードバック入門――耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』を発刊した中原氏に、そんな「フィードバック」の背景・基礎理論から、実践的ノウハウにいたるまで話をうかがった。

 

「情報通知」と「立て直し」が不可欠

「フィードバック」は、あまたある部下育成手法の中で最も重要なものにもかかわらず、日本ではあまりこれまで注目されてこなかったものだと思います。

 フィードバックとは端的に言ってしまえば、「耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、彼らの成長を立て直すこと」です。

 より具体的には、フィードバックは、次の2つの働きかけを通して、問題を抱えた部下や、能力・成果のあがらない部下の成長を促進することをめざします。

 

1.【情報通知】

たとえ耳の痛いことであっても、部下のパフォーマンス等に対して情報や結果をちゃんと通知すること(現状を把握し、向き合うことの支援)

2.【立て直し】

部下が自己のパフォーマンス等を認識し、自らの業務や行動を振り返り、今後の行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)

 

「成果のあがらない部下に耳の痛いことを伝えて、仕事を立て直すこと」は、非常に現代的なテーマでありながら、これまであまり触れられてきませんでした。書店に行っても、フィードバックという言葉を含む類書は非常に少ないと思います。

 

なぜ今、日本の職場にフィードバックが求められているのか?

 私が、なぜ今、フィードバックについて語らなければならないと思いたったのか。ここでは5つの理由を述べさせていただきましょう。

 まず第1の理由は、企業の現場において、フィードバックのニーズが非常に高まっているからです。

 最近、「部下育成がうまくいかない」「経験の浅い部下がなかなか育たない」といった声を、あちこちの企業で聞くようになりました。成果のあがらない部下をどのように立て直していくかというニーズは、一個人の問題を越えて組織全体の問題として、あるいは日本全体を覆い尽くす問題として、近年非常に高まってきています。

 第2の理由としては、「年上の部下」に代表される、職場の多様な人材に悩まされているマネジャーが増えているということが挙げられます。

 近年、一定の年齢に達したら役職を剥奪される「役職定年」や、「定年退職者の再雇用」などによって、年配の元部長や元次長が肩書きのない一般社員に戻るケースが増えています。彼らに対峙するのは、10歳以上も年下のマネジャーです。そうした人たちの間で、元部長などに対して、なかなか言いたいことが言えない、耳の痛いことをきちんと伝えられない、という「年上に意見できない症候群」が蔓延しています。

 第3の理由は、ハラスメントに対する意識が職場で過剰に高まったことが挙げられます。

 昨今、パワハラやセクハラなどのハラスメントに対する意識が強まり、世の中がフィードバック不足になっています。「部下を傷つけるかもしれないことを、どこまで言っていいのか」「耳の痛いことを言ったとき、どこまでなら問題にならないか」……。そうした懸念は、どの企業のマネジャーにも広がっています。

 第4の理由は、2000年代に広まったコーチングなどの「気づき」を重視する部下育成手法の普及によって、言うべきことをしっかり言うという文化がおざなりになってしまったことです。

 コーチングに代表されるように、近年の人材育成方法は、相手に「自分の力で気づかせること」を非常に重視しています。しかし、きちんと成長に必要な情報を理解していない部下は、自分で「気づこう」にも限界があります。コーチングという部下育成手法が悪いわけではありませんが、コーチングが偏った理解のもとで普及したために、「言いたいことを言えないマネジャー」が増える結果になったのです。かくして日本全国の部下指導を行う上司の間で、「言うべきだと思ったことすら言えない病」が広がっています。

 第5の理由は、近年、外資系の企業を中心に、目標管理制度の運用を見なおすところが増えてきていることです。

 かつて、評価は年に2回程度、上司と部下が面談をして、その場で業績成果を言い渡し、必要な場合には助言や指導を行う場合がほとんどでした。しかし、近年は、この頻度を見直し、日々の業務の中で上司と部下が繰り返し面談を行い、フィードバックする事例が増えてきています。このような人事施策の変更にともない、フィードバックの技術はさらに求められるようになることが予想されます。

 

フィードバック 7つのポイント >

iyashi

著者紹介

中原 淳(なかはら・じゅん)

東京大学 大学総合教育研究センター 准教授

1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て、2006年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材育成・リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論・人的資源開発論。著書に『職場学習論』『経営学習論』(ともに東京大学出版会)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中公新書ラクレ)、『会社の中はジレンマだらけ』(本間浩輔氏との共著、光文社新書)など多数。

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