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「耳の痛いこと」を伝えて部下と職場を立て直す技術

2017年02月22日 公開
2023年04月06日 更新

中原 淳(東京大学准教授)

 

(1)信頼感の確保

 次に、フィードバック面談のオープニングで最も重要なことは、こちらに対する「信頼感」を確保していくことです。一般にフィードバックは「ブラックボックス」の中で、上司―部下間で行われます。

 フィードバックが奏功するかしないかは、「何を言うか(What)」ということもさることながら、「誰に言われるか(Who)」が非常に重要なのです。相手に対してリスペクトをもって接し、まずは信頼感を確保していくことが非常に重要です。フィードバックは、まずは相手の成長を願い、相手の意志をリスペクト(尊敬)する態度から始めましょう。

 

(2)事実通知:鏡のように情報を通知する

 次にいよいよ収集したSBI情報を提示していきます。ここで最も重要なのは、収集した相手の問題行動を、いわば「鏡」のように相手の目の前に映しだし、客観的かつ正確に事実を通知していくことです。

 言うまでもなく、「鏡のように」とは、できるだけ主観や感情を排除し、起きている事実を起きている通りに伝えることですこの段階では、無理に「褒めること」も、無駄に「ディスる(非難する)」必要もありません。なすべきことは、あなたが事実だと思うことを、鏡のように話し、しっかりと相手に突きつけることです。

 

(3)問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる

 さて、あなたはSBI情報を収集し、今、相手にそれが問題行動であることを「鏡のように」突きつけました。先述した通り、大人の学びや行動変容には「痛み」がともないます。おそらく、相手は苦渋の表情を浮かべ、あなたも過緊張の状態におかれているものと思います。しかし、ここで大切なことがあります。一方向的に、あなたから部下に対してSBI情報を投げつけただけでは、まだ相手の理解が得られていないのです。

 この段階で上司がなすべきことは、相手と向き合い、投げつけた事実に対して「対話」を行って、相手の理解を得ることです。上司と部下の考えていることや思っていることが違うということを「前提」として、相互の理解が一致する段階まで、時間をかけて「対話」を行うことが求められます。そうして相互の意味世界をすり合わせていくのです。

 そのときに重要なのは、現状が、めざすべき目標と相当かけ離れていることを、しっかり認識してもらうことです。営業の仕事のように、数字でギャップが見えやすい内容なら、「月100万円のノルマに、あと30万円足りない」など、直接数字で示すことも可能です。カスタマーサポートや総務など数字でギャップを示しにくい仕事には、「本来ならば、その仕事の先にどんな光景が広がっているはずなのか」を問いかけ、現状とのギャップを部下に意識させてください。

 

(4)振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり

 この段階で次のステップとして行われるのが、過去と現在をもう一度しっかりと振り返り、未来の新たな行動計画や目標をつくりだしていくことです。これが、ギャップを埋める作業につながっていきます。こうした上司の行動のことを「振り返り支援」といいます。

 振り返りを行っていくときのポイントは、部下が自らの姿を客観的に見られるように、部下自身に自分の過去・現在の状況を「言葉にさせること」です。今後は上司が「言葉にする」のではありません。むしろ上司は部下に問いかけを行うことで、部下に自分の言葉で語らせることをめざします。

 

(5)期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる

 これでフィードバックは終了です。

 上司からしっかりと今後の期待を通知し、エンディングにつなげます。この段階で、部下は痛みを感じているとは思いますが、2つのポイントを伝えて、しっかりと送り出してあげることが大切です。

 第1のポイントは、上司がしっかりと期待を伝えることです。フィードバックを受けた個人を「孤独」にしないことです。しっかりとサポートしていく旨を告げることは、彼らが自らのあり方を立て直すときに非常に大きな資源になります。

 第2のポイントは「再発予防(Relapse prevention)」をすることです。たいていの場合、問題を抱えた部下は、これまでにも自分の問題点について何度も指摘を受けてきた人が多いと思います。しかし、そうであるにもかかわらず、彼らは、自らの問題を解決できなかった。すなわち、問題を1度は解決しようとして、また「再発」してしまったということになります。

「再発予防」とは、このような問題を抱えている人に対して、「問題を起こすな!」と言い続けるのではなく、「問題が再発することを前提」にして、その「予防策」を事前にたてさせるということです。

 

【事後】フォローアップ

 フィードバックは、フィードバック面談では終わりません。そこからのフォローアップとモニタリングが決定的に重要です。

 また、フィードバックは1度きりで終わることはまれです。1回のセッションだけで時間が不足してしまった場合には、場合によっては、2度目のセッションの約束をします。1回のフィードバックだけでは、また部下が忘れてしまうような状況では、フォローアップの面談の時期を決めましょう。

 

フィードバックは個人の問題ではなく、「組織の問題」?

 人を変えるためには、このように「手間暇」をかけ、かつ、「あの手この手」を尽くさなければなりません。しかし、私たちは、できる限りあきらめず、部下の変化を信じることこそが重要だと思います。

 昨今の研究では、フィードバックは組織によって推進できるかそうでないかが決まってしまうということがわかっています。

 要するに、フィードバックは「個人の問題」以上に「組織の問題」であるということです。フィードバックがなされるか否か、はたまたそれが奏功するかどうかは、個人レベルではなく組織レベルで強く規定されているということです。

 上司と部下の間のフィードバックを高めていくことは、「個人だけが努力しなければならない問題」ではなく、「組織が本気で取り組んでいかねばならない課題」であると私は思っています。経営者や人事責任者は、フィードバックを「現場のマネジャー」まかせにするのではなく、自らも立ち上がり、自らの組織を「フィードバックに満ちあふれた組織」にする責務があります。

 あなたの組織は、フィードバックが正しくなされている組織でしょうか? 今一度、これを機会にマネジャーの皆さんが社内での人材育成を捉えなおすきっかけになれば幸いです。

著者紹介

中原 淳(なかはら・じゅん)

立教大学経営学部教授

1975年、北海道生まれ。東京大学卒業、大阪大学大学院修了、メディア教育開発センター(現・放送大学)助手、米国・MIT客員研究員、東京大学講師、准教授等を経て、2018年4月より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織の人材開発、組織開発について研究している。著書に、『フィードバック入門』『実践!フィードバック』(以上、PHP研究所)など多数。

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