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アニメ制作スタジオを「先行投資」で強くする

2017年03月25日 公開

山本幸治(ツインエンジン代表)

 

アニメ制作スタジオが疲弊する理由とは?

 

 ――独立をすると、フジテレビにいるときよりも、自主企画でアニメを制作することが難しくなりませんか?

山本 フジテレビにいた頃から、ビジネスの座組みを組んで企画を強く組み立てるのが仕事だったので、表面的にはあまり変わりません。裏側で大量の資金調達のリスクを負っているなど、変わったところもありますが、もともとリスクテイクをしていくのが自分の主義なので、自分でリスクを背負えるようになって、ある意味、清々しいと感じています。自社企画もかなりの数を進めています。夏頃、それを発表できるように準備しています。

 イメージでお話しすると、独立してからは、「トヨタ戦略」ではなく「スバル戦略」なのかなと思っています。フジテレビにとっての『ONE PIECE』や『サザエさん』はトヨタのカローラです。ノイタミナ時代、僕は、フジテレビにいながらスバルのインプレッサを作っていたところがあった。

 ただ、クルマ業界とは違って、アニメのようなソフト産業においては、スバルのクルマが突然大ヒットして、トヨタを抜き去ることがあり得ます。では、ヒット作を作るにはどうすればいいかというと、どの作品がヒットするか究極的にはわかりませんから、ある程度の量を作ることが必要になります。フジテレビの中では放送枠に縛られて量を作れないというのも厳しかったですね。

 僕が編集長を名乗っていたときのノイタミナ枠は、1時間枠に30分番組を2本編成していました。今は30分枠1本に減っています。フジテレビは資金力があるので、制作本数をもっと増やして、大阪のMBS(毎日放送)のように系列外のTOKYO MXで放送してもいいと思うのですが、現実の組織論からそれは認められません。一方、アニプレックスは1クールに4~5本、多ければ7~8本も作っている。これではなかなか対抗できません。

 まずは、ツインエンジンのタイトル数を、昔のノイタミナくらいまでは広げたいと思っています。

 ――量を作るために、制作スタジオをグループ化しているのですか?

山本 制作スタジオの経営には、みんな手を出さないんです。つきあいや救済の意味合いで資本参画することはあっても、構造的に赤字になりやすい制作スタジオの経営には外から手を出しにくい。制作で大きな黒字を継続的に出している会社は多くないと思います。

 ツインエンジンの掲げる「スタジオブランディングビジネス」では、制作スタジオに長期目線で先行投資し、強くすることで、スタジオから生み出せる可能性のある利益を最大化することを目標としています。「制作を格好良く強くする」というビジョンで、制作スタジオの連携を広げています。単純に制作が好きだということも大きな理由ですが。

 ――制作スタジオが赤字体質なのは、なぜなのでしょうか?

山本 受注業の宿命で、クオリティを追求すると、スケジュールと予算を圧迫する構造になっているからです。努力をしても簡単には制作受注単価は上がらない。よほどの大ヒットが出れば別ですが、多少のヒットでは制作スタジオへの還元はごくわずかです。

 予算が十分でないから人が十分に確保できず、疲弊して、作品の質も上がらず、納期も間に合わない。そうなると、次も制作単価の高い仕事を受注することができない、という悪循環に陥ってしまいます。

 そうならないための方法の1つが、先ほども触れた京都アニメーションのように、規模の拡大を目指さず、質にこだわることです。発注元が取りあいをするような質の高い制作スタジオになれば、時間はかかりますが、制作単価を上げることもできるようになります。ただ、量が作れないとヒットに恵まれる可能性が物理的に下がるので、もし悪い循環に入ってしまった場合には打てる手が少なくなるという問題もあります。

 そうかといって、量を作ろうとすると質が下がります。とあるトップレベルの制作スタジオが、受注量を増やすために、総グロスといって、受注した作品の制作をそのまま下請けに回すことをしていました。それによって一時的には売上げ拡大ができても、クオリティや信頼が損なわれ、その次の受注に悪影響を生むことになっていました。

 ――質を維持しながら量を作るのは難しいですね。

山本 そこでツインエンジンがしていることは、制作スタジオが、将来、質の高い作品を作って利益を生むことを見込んで、長期にわたる複数案件の契約をし、制作スタジオに先行投資していくことです。大手よりも高い制作単価で発注し、利益の還元率も大手より高くしてこうと考えています。

 予算があれば、人を確保でき、作品の質を上げられて、ヒット作になる可能性が高まります。つまり、制作スタジオに先行投資をすることは、発注側であるツインエンジンと受注側である制作スタジオの双方にとってメリットがあるわけです。簡単に言うと、これが「スタジオブランディングビジネス」の仕組みです。

 ――実際に作品が世に出てヒットするまでは、ツインエンジンの持ち出しになりますね。

山本 そうです。ですから、将来を賭けられるような具体的なモノが必要です。人であったり、若さであったり、技術であったり。たとえばスタジオコロリドには石田(祐康)や新井(陽次郎)といった20代の若い人材がいて、デジタル作画という先行技術があるから投資できるわけです。

 今はアニメバブルのピークです。まず、AmazonやNetflixといった海外配信勢が日本市場に参入し、国内の配信ビジネスに競争原理が働いて、アニメのB to Bの取引価格が5年前の3倍くらいに上がっています。

 映画配給ビジネスも好調です。『君の名は。』(2016年公開)の大ヒットの他、『この世界の片隅に』(2016年公開)の興行収入も20億円を超えました。その前から、ノイタミナからも『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』(2015年公開)が8.5億円を超え、『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013年公開)が10億円を超えるなど上向いてはいました。

 しかし、そのバブルの恩恵を、受注側の制作スタジオはほとんど受けられていません。受けきれないほど仕事があって、制作スタジオはどこも手一杯で、発注側が制作スタジオのラインを押さえるのに苦労している状況なのに、制作スタジオのアニメーターの待遇が悪かったり、マングローブのように経営破綻する制作スタジオが現われたりしている。このままでは、いったん業界がつぶれることは目に見えています。

 だから、発注側が得ている利益を、制作スタジオにもっと還元したい。格好良い制作スタジオが儲けられる時代を作りたい。それが我々のビジネスチャンスだとも思っています。

 

凄腕アニメーターに頼らないアニメ作りを

 インタビュー記事中にもあるように、スタジオコロリドはデジタル作画に特化したアニメ制作を行なっている。これは、将来的な制作の効率化も目指すが、従来の「フリーランス」によるシステムと「アニメーターの祭り」のような制作スタイルを変えることにもなる。

「アニメーターはいろいろな制作スタジオを転々とするんです。ある熱い作品に人が集まっているという噂がまた人を集めて、その作品が終わったらみんな散り散りになる。そしてまた別の作品に集まる。これが従来からのスタイルです。

 これはこれでダイナミックで面白いのですが、凄腕アニメーターの人数は限られているのでずっとは続けられないシステムです。人材の育成をしないと、業界が縮小していくでしょう」(山本氏)

 ツインエンジングループの挑戦は、まだ始まったばかり。どんな作品を生み出していくのか、楽しみだ。

《写真撮影:まるやゆういち》

iyashi

著者紹介

山本幸治(やまもと・こうじ)

〔株〕ツインエンジン代表取締役

1975年、愛知県生まれ。〔株〕フジテレビジョンを経て2014年に〔株〕ツインエンジンを設立、現在に至る。

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