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徹底した「準備」が、強いメンタルを作り出す

2017年03月31日 公開
2023年04月06日 更新

荒木香織(園田学園女子大学人間健康学部教授)

適切なフィードバックが部下のメンタルを支える

 また、チームを預かる中間管理職としては、自分だけでなく部下のメンタルも気にする必要が出てくる。とはいえ、部下の思わぬミスに、怒りや脱力感を味わった人も少なくないはずだ。「あれほど言っておいたのに」と。しかし、荒木氏は「部下のミスは自分のミスとして受けとめるべき」と話す。

「部下がミスをしたということは、『何のためにこの仕事をするのか』という目的や情報を共有し切れていなかったということ。それは上司の責任です。

 私は今、大学で教えていますが、学生との関係も同じです。とんでもないレポートを提出してくることがあります。そんなとき、自分が何を求めているかを伝え切れていなかったことを反省して、伝え直します。

 むしろ、できない部下に苛立つのではなく、そう育ててしまった自分の指導力やリーダーシップを見直すべきです」

 部下がミスをしたときには、ただ叱るだけではなく、具体的な方法をアドバイスすることが大切だ。また、リーダーにとって、褒めることも欠かすことができない。これが非常にうまかったのが、エディ・ジョーンズヘッドコーチだったという。

「彼は選手に厳しい指摘もしていましたが、良いプレーをすると『いいよ、上手』『グッド・ジョブ』とすかさず、そして的確に褒めていました。それだけ選手一人ひとりに興味を持って接していたということです。小さな変化に対して少しでもコメントすることで、選手は『あの動きでいいんだ』『評価してくれている』と小さな自信を積み重ねていくことができたのです」

 ビジネスシーンも同様、部下へ何らかの形でフィードバックをしないのは、リーダーとして失格だと荒木氏は指摘する。

「最近は部下のフルネームを言えない上司が増えているようです。エディさんは選手と自分の息子のように愛情をもって接していました。だから選手は叱られて悔し涙を流しても、エディさんを信頼していたんです」自分の能力を全力で発揮できる環境が大事

 もう1つ、我々が陥りがちな問題として「人と比べてしまう」というものがある。荒木氏も「人と比べてもあまり良いことはない」と指摘する。

「人と比べるくらいなら過去の自分と比べ、今どれだけできているか、できていないか、変化できているのかを考えるほうが健康的です。他人と比べるクセを止めるのが、会社の中でも必要なメンタルスキルの1つかもしれません」

 しかし、それでももうにっちもさっちもいかない、という状況になったら、どうするか。荒木氏は「自己犠牲の発想を捨てよ」と指摘する。

「日本人は『頑張れば必ず結果が出る』と思い込みすぎている気もします。でも、その思い込みを一度外して『こんなもんだ』と思えるかどうかが大事だと思います。

 そして、この場では自分の能力を発揮できないとわかったら、違う環境へと自分を移す勇気も必要です。私もこれまでの人生で何度か経験しました。逃げたと思う人もいるでしょう。

 でも心と身体の健康を守ることのほうが大事です。日本では自己犠牲をしてまで成果を出すことが美徳のように言われますが、それは違います。健全に自分の能力を全力で発揮できる環境が大事なのです」

 

『THE21』2017年3月号より

 

取材構成 社納葉子 写真撮影 松村志奈

著者紹介

荒木香織(あらき・かおり)

園田学園女子大学人間健康学部教授 博士(スポーツ科学)Ph.D

1973年生まれ。メンタルトレーニングコンサルタントとして、アメリカでスポーツ心理学を学び修士、博士課程を修了。2012年から3年間、ラグビー日本代表のメンタルコーチを務めた。著書に『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』(講談社+α新書)がある。

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