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「手作り」を貫くモスバーガーのミス防止術

2017年06月12日 公開
2017年06月14日 更新

桜井卓也(モスフードサービスCSR推進室)

「記録ノート」「カード」……ミスを防ぎ、共有する仕組み

顧客の健康に関わる商品を提供する外食チェーン。衛生維持など店舗運営には細心の注意を払う必要がある。全国に約1,400店舗を展開し、業績好調なモスバーガーでは、一般的なファストフードチェーンとは違って「注文を聞いてから作る」スタイルを貫いている。作りおきするよりも大変な仕事になるが、ミスを起こさず高品質な商品を提供続けている。その秘策を聞いた。〈取材・構成=西澤まどか、写真撮影=長谷川博一〉

 

チェック必須のノートでPDCAサイクルを回す

人の口に入るものは、ひとつ間違えると、大きな事故になりかねない。それだけに飲食店の責任は重く、外食チェーンでは商品提供の仕組み化が不可欠だ。どのようにしてミスを未然に防ぐのか。「完璧にミスをなくすことはできません。でも最大限ミスを少なくするための努力をし、予防することは可能です」と前置きし説明してくれたのは、モスフードサービスのお客さまサポートグループの桜井卓也氏。桜井氏は、顧客からのお叱りや意見、報告をまとめ迅速に対応する立場にいる。ミスと言っても、その重大さや優先順位はさまざまだ。

「まず、店舗で起きた問題に関しては、原則、店舗で解決しています。全ての店に置いてある『お客様情報記録ノート』に対応者が書き込み、それに対して店長やスーパーバイザー(SⅤ)が必ずアンサーを返すようになっています」

たとえば、顧客から『お辞儀の仕方がなっていない』と注意された場合。その注意を受けたスタッフがお客様情報記録ノートに内容を書き込む。その場合、ただ起きたことを書き込むのではなく、必ず「対策」も一緒に書き込むようにしている。

 「どのようなお辞儀の角度が正しいのか、マニュアルを見返し、必要があればそのコピーをノートに貼りつけることもします。つけ加える点があれば、店長やSⅤが記します。そしてそのお客様情報記録ノートを、スタッフ全員が入店前に必ず目を通します。読んだらサインなどのチェックをすることになっています。

このお客様情報記録ノートは、三つの機能を果たしています。まず、なぜそのことが起きたのか、『原因を追究』すること。そして『対策を立てる』こと。最後に『全員に周知』させることです。

モスバーガーの場合、店舗に全スタッフが揃うことはほぼありません。週に一回しかシフトに入らない人もいます。全員に同じ問題意識、共通認識を持ってもらうことに、このお客様情報記録ノートは役立っています」

 

チェーン全体の課題は全社を挙げて解決

このように店舗単位で解決できる問題もあれば、全社的に取り組まなければならない問題もある。たとえば、「低アレルゲンメニュー」の注文・提供の間違いだ。この商品は、アレルギーを持つ子供向けのメニューとして人気がある。しかし、同じように玩具付きの「モスワイワイセット」という通常食材を使用したメニューと似ていて、混同されることがあった。

「アレルギー食材の取り違えは大きな問題に発展する可能性があるので、直ちに対策を打つ必要がありました。この問題は、本社の『食品安全会議』の議題に上げました。この会議には、私たちお客さまサポートグループが報告をするだけではなく、店舗から報告された問題も発表されます。それを営業、販売促進、リスクマネジメントチームなど様々な部門を横断して解決していきます」

「低アレルゲンメニュー」と「モスワイワイセット」は、従来のメニュー表では近い位置に掲載されていたため、同商品を勘違いしてオーダーするケースが出ていたという。

「会議では、メニュー表のレイアウトを変えることと同時に、次の案も出ました。それは、『低アレルゲンメニュー』を頼んだ方には、確認の意味も込めて、同商品の『低アレルゲンカード』をお渡しすることです。これは、スタッフとお客様、互いに間違いないか確認の意味を込めています。商品を作っている間にお客様に持っていただき、商品を提供する際に回収します」

この取り組みを実施するにあたり、まずは営業系の部署に、現場で実現可能か確認。そしてメニュー表の刷新やカードの作成には販売促進グループと連携を取り、販促物を作成した。

「安全に関わる問題なので、議題に上ってから時間をおくことなく改善案を実施できました」

その他、食品業界であってはならないミスとして「異物混入」がある。これを防ぐため、マニュアルを作り替えた事例もある。

「厨房内では細心の注意を払い作業をしています。しかし、食材の入ったビニールの一片を切ったときに、何らかの拍子で混入してしまう可能性もあります。それを防ぐため、『ハサミは決められた場所以外では使用しない』『使用したら必ず決められた場所に戻す』など、小さなことも見逃さずにミス発生防止に取り組んでいます」

 

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