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界 加賀の「加賀獅子舞」

2017年09月01日 公開
2023年07月12日 更新

<連載>続・星野リゾートの現場力(1)

人生で初めて博物館を訪れた

演舞のあと、いつものようにゲストとの記念撮影に応じていると、こんな質問を受けた。
「獅子頭は何の木で作られているのですか?」

答えに詰まった直井さんは、獅子頭を展示する博物館を訪れてみようと思い立った。小学、中学ではサッカー、高校では野球に明け暮れた根っからのスポーツ青年だったため、博物館と名の付く場所に足を踏み入れるのは初めての経験だ。館内では、獅子頭の制作工程を紹介する展示に思わず見入った。
「へぇ、白山地方の木が使われているのか」

ほかにも獅子舞は手彫りで作られていること、また地域の守り神として、地域ごとに1体1体の顔や色が違うことも知った。これまで「うまく踊れるようになりたい」とばかり考えていたが、伝統文化としての加賀獅子をもっと知りたいと思った。博物館を出て、近くの獅子頭の工房を訪れると、職人が実際に獅子頭を彫る様子を見せてくれた。

「昔はこの辺りでよく獅子舞をやっていたんだが、今はそれほど見なくなったね」
工房で耳にした話が、直井さんの心にひっかかっていた。それで図書館に足を運んでみた。カウンターで「加賀獅子舞の歴史や、地域でどのように伝承されてきたかを知りたい」と伝えると、関連する本を4~5冊、探し出してくれた。地元の人たちは、自分たちの文化に興味を持つ人に対してとても親切だ。

加賀獅子舞も、他の伝統文化の例に漏れず、一度は衰退しかけた過去があったようだ。若者の流出、少子化による人口減少、祭りの数の減少などが主な要因だ。
自分たちが獅子舞を踊ることは、加賀の伝統文化を継承するうえでも重要な役割を担っている。直井さんは改めてそう感じた。

 

 

若きリーダーがつかんだ仕事のチャンス

「界」には、サービスを進化させるための施策を考えるチームが、施設ごと、サービスごとに存在する。直井さんは現在、ご当地楽としての加賀獅子舞の魅力向上を模索するチームのリーダーを務めている。

星野リゾートには、たとえ入社2年目であっても、意欲さえあれば誰でもポジションに挑戦できる風土がある。本人のやる気を尊重し、チャンスを与える。それは可能性を潰さないためだ。直井さんも自らリーダーに手を挙げた。
踊り始めた頃は、先輩スタッフの踊りに見よう見まねでついていくのに必死だった。獅子舞への興味と愛着が増した今は、どうすればゲストにも獅子舞をより楽しんでもらえるのか、そのことをいつも考えている。

最近、直井さんの発案で、獅子頭のストラップを旅館の売店で売り始めた。「きっと売れると思うんです」と工房に協力を依頼しに行くと、「最近は獅子頭をアピールできる機会も少ないから、ぜひ」と快諾を得た。
ゲストに獅子頭のストラップを持ち帰ってもらうことで、旅から帰ったあとも、加賀獅子舞を思い出してもらえたらうれしい。「多くの人に加賀獅子舞に興味を持ってもらうきっかけになれば」と直井さんは期待を込める。

伝統を大事にしつつ、獅子舞の新しい見せ方にも意欲的だ。「プロジェクションマッピングと獅子舞を組み合わせてみたらどうだろうか――」。ゲストの喜ぶ顔を想像すると、アイデアはどんどん膨らんでいく。
こうして、獅子舞のことを考えている時が楽しいという。

「獅子舞に出会って、地元のお祭りに遊びに行くだけでなく、今まで縁のなかった博物館や美術館にも足を運ぶようになりました。自分でも驚いています」と直井さんは話す。

自分が興味あることだから追求できるし、そのこだわりが他にはないサービスを生み出している。直井さんのようなスタッフ一人ひとりの情熱が、星野リゾートの競争力の源泉となっている。

 

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