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ストレスを「部下の成長につなげる工夫」がメンタルダウンを防ぐ

2017年07月26日 公開
2022年07月12日 更新

白波瀬丈一郎(慶應義塾大学ストレス研究センター副センター長)

人間の成長には
適度なストレスも必要

中でも管理職は、メンタルヘルス対策において大きな役割を担います。3つの予防のどの段階でも、現場の最前線で対応するのは管理職だからです。

一次予防のラインケアにおいて求められるのは、快適な職場環境づくりへの努力です。たとえば、管理職が率先して職場での挨拶を促すだけでも、職場のストレス要因を減らす有効な対策になります。また、部下を褒めるのも大きな効果があります。頑張った自分を認め、自己評価を高めることは、部下がより高いモチベーションで仕事に取り組む原動力になるからです。

二次予防においては、「いつもと違う」が早期発見のキーワードです。いつもは始業の10分前に出社している部下が、最近は遅刻ギリギリで駆け込んでくる。いつもは大人しい部下が、今日はやたらと饒舌だ。こんなふうに普段と違う言動に気づいたら、本人の行動を注視し、必要に応じて産業医などの専門スタッフに相談してください。

三次予防となる復職者への支援は、本人が「働く能力」を取り戻すことが重要です。せっかく復職したのに、周囲が腫れ物扱いして仕事を与えずにいれば、働く能力は失われ、本人の意欲はますます低下します。私は精神科医として、復職者を受け入れる上司には「特別なことは何もせず、原則、他の部下たちと同じように業務を与えてください」と伝えています。

WHO(世界保健機関)は「健康」の定義を「身体、精神、および社会的に満たされている状態」としています。社会的に満たされるには、働くことで「自分は社会に貢献している」という実感を得ることが欠かせません。不調を再発させないためにも、過剰に保護的な復帰支援からは脱却する必要があります。

ストレス学説を提唱した生理学者ハンス・セリエは、「ストレスは、人生のスパイスである」と述べました。過度のストレスは健康を害しますが、人間の成長には適度なストレスが不可欠ということです。
職場のストレス要因を減らすのは大前提ですが、“ストレスゼロ”を目指すのではなく、ストレスを社員の成長につなげる仕組みも必要だということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

 

会社は働くだけの場所?
「適度なストレスは部下の成長に必要」と言われても、「どの程度の負荷ならいいのか」と戸惑う上司は多いだろう。そんなときは、仕事の量や内容だけにこだわらず、仕事の"与え方"を工夫してほしいと白波瀬氏はアドバイスする。
「『この仕事は君にとって少し難しいかもしれない。でも、これをやり遂げればプロジェクトの成功率は大幅にアップするから、期待しているよ』。こんなふうに、上司である自分が負荷の大きさをわかっていることを伝えたうえで、仕事の目的や意義を示せば、部下は達成感を得やすくなる。それが本人の成長につながると同時に、仕事のストレス要因も減らします」
「会社は働くだけの場ではなく、人を育てる場でもあったはず」と白波瀬氏。企業の管理職が担う社会的役割を再認識することも、職場のメンタルヘルス対策を進めるうえで重要となりそうだ。

 

《『THE21』2017年7月号より》

著者紹介

白波瀬丈一郎(しらはせ・じょういちろう)

慶應義塾大学ストレス研究センター副センター長

1960年生まれ。86年、慶應義塾大学医学部卒。2002年、医学博士取得。同大学医学部精神・神経科学教室の専任講師を経て、14年より現職。1997年から産業精神保健活動に取り組み、企業のメンタルヘルス対策に携わる。2009年、KEAP(KEIO Employee Assistance Program)を立ち上げ、労働者の復職支援に尽力するとともに、職場の環境改善を含めたトータルなメンタルヘルスマネジメントを行なっている。

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