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「帰れない職場」の原因はここにあった!

2017年08月15日 公開
2023年03月23日 更新

沢渡あまね(業務改善・オフィスコミュニケーション改善士)

 

ムダをなくして生産性を上げるプロセスとは?

ムダを見つけるための3つの「出す」

 さて、これまでさまざまなムダに対する改善法をお話ししてきましたが、そもそも「職場のムダ」を見つけるために必要なことは何か。それは、3つの「出す」──「書き出す・見出す・ひねり出す」です。

「書き出す」は、たとえば「各自が抱えている仕事や課題を付箋に1件ずつ書き出す」こと。文字にすることで現状を「見える化」できます。

 次いで、その付箋を模造紙などに貼って皆で眺めます。書き出したものを眺めてみると、「これムダだよね」「こんな課題もあるかも」などと、ムダや改善点が見えてきます。そして、「ムダ」を「ムダ」だと言いだす人が出てきます(いわば「言える化」ができる)。これが「見出す」段階です。

 その際、それぞれの業務を、「すぐやる」「後回しにするか誰かに頼む」「明日やる」「やらなくていい」と、重要度や緊急度の高低で4つに振り分けましょう。こうして、メンバー全員で、この仕事がどこに当たるのか、その対応はどうするのかを「ひねり出して」いくのです。

 同じ要領で、さらに多角的な視点を生むのが「ロールプレイングゲーム(RPG)方式」です。RPGにはよく、敵と対峙した際に「たたかう」「にげる」「ぼうぎょ」「じゅもん」「どうぐ」などの選択肢が出てきますが、これを仕事にそのまま当てはめていきます。

 書き出された仕事や課題に対して、「たたかう」(全力で取り組む)のか、「にげる」(やらない)のか、「ぼうぎょ」(保留して様子を見る)なのか? 「じゅもん」はさしずめ現代の魔法とも言えるITを駆使した自動化・システム化。「どうぐ」はアウトソーシング、など仕事や課題との向き合い方をチームで議論して決めましょう。

「たたかう」ばかりでは効率化は不可能

 ゲーム感覚でそれぞれの選択肢を検討していくことで、メンバーの発言が活性化されるとともに、どの仕事を優先して、どの仕事は後回しでいいのか、チームで意識を合わせることができます。また、発想が広がり、さまざまな対処法をひねり出すことができます。

 この方法は、メンバーの意識を高めることにつながります。日々無数のタスクに追われ、何も考えずにすべて「たたかう」で対処していた、などと気づくきっかけになるからです。多様な選択肢を視野に入れることで、一人ひとりに柔軟な時短の発想が身につくでしょう。

 こうして、共通意識を持って皆で話し合い、判断する機会を繰り返していくうちに、「この類のケースにはこう対処する」という全体方針が定まってくるはず。こうすることで、“判断の属人化”によって「担当者によって対応が違う」といったことが起こらず、チームとしてブレのない価値観や姿勢を示すことができます。

 この構図も、RPGと非常によく似ています。個性の異なるキャラクターが一つの目的を目指してパーティーを組むことは、さまざまな能力やスキルを持つ社員がチームとして仕事をするのと同じ。お互いが足りないところを補い合ってチームとしての経験値を上げていくことが、生産性を上げるための第一歩となります。

ムダ削減の際、むしろ増やすべきこととは?

 さて、このような場を何度も設けるとなると、当然ミーティングが増えます。これは一見ムダ削減に逆行する作業のようですが、こうした機会は増やしてもまったく問題ありません。

 ムダ削減というと、「減らす」ことばかりが注目されがちですが、内容を考えずになんでも省くのはナンセンス。とくにコミュニケーションは、むしろ増やすべき要素です。

 先述のとおり、ムダを生む原因の多くは「指示不足」「報連相不足」「部下への無知」など、コミュニケーションの不備によるものです。そこを強化することが、結局はムダ削減につながるのです。

 チームで共有する問題について一緒に考えることで、メンバー間に安心感と目的意識が生まれます。互いに思いを語ることでストレスが軽減されるうえ、話をする中で各人の適性や得意分野が明確になります。上司はそれらを俯瞰し、適材適所で仕事を配分しましょう。

ポジティブな仕事の「飛躍効果」を活用する

 こうして、有意義で“やりがい”を伴うポジティブな仕事を増やし、時間を浪費するうえに“やらされ感”を伴うネガティブな仕事を減らす。この「増やす」と「減らす」の両輪で、生産性は一気に向上します。

 人は好きなこと・得意なことをしているときに、通常の3~5倍も生産性がアップする、ともいわれています。本当の働き方改革とは、ポジティブな仕事を増やして、ネガティブな仕事を減らす取り組みであるべきなのです。

 一方で、本人が好きで行なっている仕事が、客観的に見るとムダ、というパターンもあります。その際、上司は「それはムダだ」とストレートに指摘してはいけません。

 人が特定の仕事にしがみつく理由は2つ。その仕事を愛しているか、その仕事を通してでなければ自分の価値を出せない、と思っているからです。それを否定してしまうと、相手のやりがいを根こそぎ取り上げることになってしまいます。

 ここでの解決策は、「その人らしさ」に着目することです。本人の個性や適性を観察し、その性質を別の仕事──チームにとって意味があり、かつ本人の成長にもつながるようなワンランク上の仕事に活かせないか、考えてみましょう。

 そのうえで、「君は○○が得意だから、これを任せたい」と、次のステップを用意。そうすればモチベーションを維持したまま現行の仕事を手放し、新たな仕事に移行できるはず。

 その際、新たな仕事がチームにどう貢献するかを明確に示すことも不可欠です。別の仕事を任せることは、未来を示すことによって本人のやりがいを増やし、生産性を上げるチャンスでもあるのです。

 この、個人の「らしさ」と「やりがい」に注目することが、生産性の向上のためには必要不可欠となってくるのです。

≪取材・構成:林 加愛 イラスト:タカハラユウスケ≫
≪『THE21』2017年8月号より≫

著者紹介

沢渡あまね(さわたり・あまね)

業務改善・オフィスコミュニケーション改善士/あまねキャリア工房代表

1975 年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、日産自動車、NTTデータなどを経て、2014年にあまねキャリア工房を設立。複数の企業で「働き方見直しプロジェクト」などのアドバイザーとして活躍。ベストセラー『職場の問題地図』(技術評論社)シリーズなど、働き方改革に関する著書多数。

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