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従属国家論~日米戦後史の欺瞞(1)

2015年06月11日 公開

佐伯 啓思

《PHP新書『従属国家論』より》

事実の隠蔽によるごまかしの「戦後意識」

 

 戦後70年とわれわれはいいますが、それはいわば通称とでもいうべきものです。このことは大事なことで、戦後の基を作ったのは、1945年から52年までのこの占領期間だった。占領期間という、いわば「戦後」の準備期間があり、あるいは、一種の猶予期間があり、そこで「戦後」が作り出された。

サンフランシスコ講和条約において「戦後」が始まったとするならば、1945年の8月15日は何だったのか。それは、日本の「敗戦」が決定した日です。「敗戦」の日と「戦後」は決して一致しないのです。その間に広がるのは「占領」という特異な時間なのです。

だから、いってみれば、「敗戦」が、この期間をへて「戦後」へと作り変えられてゆくのです。そして1952年にそれを国際的に承認された。文字通り日本は国際社会に復帰し、戦後がスタートする。その意味でいえば、1945年8月15日は「敗戦の日」であり、1952年4月28日が「終戦の日」というべきなのです。

しかしそれを簡略化して、戦後は1945年8月15日に始まるとしてしまうと、戦後の基礎を作ったのがGHQであったという根本的な事実が見えなくなってしまうのです。

まさにこんなところに、日本人の通常の「戦後」意識が現われていて、GHQが作った「仮の戦後」とその後の「本当の戦後」がまったくひと続きになってしまっている。

これをひと続きにする心的なトリックは、GHQを、「占領軍」ではなく「解放軍」だと了解することでした。GHQは、軍国主義的支配から日本国民を解放した解放軍だったということです。

これがわれわれの大多数が持っている通常の「戦後意識」なのです。天皇が終戦の詔勅を出して戦闘が終わった。このときに、軍国主義から民主主義に変わった。ここに「戦後」が始まる、ということです。

しかしそういってしまうと、GHQによって武装解除され、民主化がなされたといった事実が隠蔽されてしまう。

あたかも、「われわれが」自ら軍国主義を排除して、民主主義を打ち立てたかのように見えてしまう。実は、すべてはGHQが、もっといえば「アメリカ」が演出しているにもかかわらず。

「戦後」というドラマの主演役者は日本でも、演出を行ったのはアメリカだったのです。

それを、1945年8月15日を終戦の日として、そこから「戦後」が始まったとしてしまうと、あたかも、われわれ自身が、この日を契機に戦争を反省し、懺悔し、民主主義へと向かったかのように見えてしまう。

たとえば、戦後の代表的な政治思想家であった丸山眞男は、常々、この8月15日こそが「戦後民主主義」の原点であり、そこへ立ち戻るべきことを訴えていました。「復初の説」です。

また、憲法学者の宮沢俊義は、有名な「8月15日革命説」を唱えて、この8月15日に、軍国主義から民主主義への体制転換をはかる「市民革命」が生じたと見なすことできる、と述べたのでした。

こうして、「戦後」の出発点にわれわれはひとつの欺瞞を抱え込んだわけです。

端的にいえば、アメリカによって日本の戦後はつくられた、という事実を隠蔽した。それは、アメリカの占領政策や改革の良し悪しという次元のことではありません。それ以前の問題です。「戦後」を生んだのはアメリカだ、ということです。

iyashi

著者紹介

佐伯啓思(さえき・けいし)

京都大学名誉教授

1949年奈良県生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。滋賀大学経済学部教授などを経て、現在、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専攻は社会経済学、社会思想史。
おもな著書に『隠された思考』(筑摩書房、サントリー学芸賞)、『「アメリカニズム」の終焉』(TBSブリタニカ、東畑記念賞)、『現代日本のリベラリズム』(講談社、読売論壇賞)、『「欲望」と資本主義』(講談社現代新書)、『反・幸福論』『日本の宿命』『正義の偽装』(以上、新潮新書)、『アダム・スミスの誤算』『ケインズの予言』(以上、中公文庫)など多数ある。

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