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IoTって何?―3つの「オープン」を活用してイノベーションを起こせ

2015年09月09日 公開
2016年11月11日 更新

岡崎哲二(東京大学大学院経済学研究科教授)

シリコンバレーを活用せよ

 

「オープン・イノベーション」とは

 安倍政権下で「シリコンバレーと架け橋を」「日本の中小企業をシリコンバレーに」といった動きが加速しつつある。また、日本の大企業もいままでにない取り組みを見せている。

 しかし、これまでも、政府、企業は、シリコンバレーの経済エコシステム(経済生態系)を日本で実現する、または、シリコンバレーのイノベーションを日本企業が取り入れ活用する、という試みは行なわれてきた。しかし、その試みが成功したという実例が聞こえてこない。

 一方で、シリコンバレーは着々とイノベーションを起こしている。IT系、情報通信だけでも、ヤフー、グーグル、イーベイ、ペイパル、ツイッター、フェイスブック、セールスフォース、エバーノート。さらに、テスラモーターズは自動車、GoProはビデオレコーディング、港のポートマネジメントシステムを開発するカーゴテック、ホテルのディストラクションはエアビーアンドビー(Airbnb)、タクシーとか交通のディストラクションはウーバー、ソーラーエナジーのサンパワー、メディカルディバイスとイノベーションの対象も日本人のイメージをはるかに凌駕する。

 もちろん、日本でもシリコンバレー的なものをつくることができればそれに越したことはない。しかし、とくにITの世界で10年後というのは、あまり意味をなさない。やはり、シリコンバレーを日本につくるのではなくて、シリコンバレーと日本自身がどう手を組むかというところに注力することが現実的だ。アメリカのシリコンバレーをいかに日本が取り入れるか。

 いったい、日本人に、日本企業に何が不足しているのか。シリコンバレーは失敗を許容し、日本は“Fearoffailure” が強いとはいわれるが、埋めることのできない文化的な差異なのだろうか。

 じつは、「オープン・イノベーションのシリコンバレー」を見習うといいながら、企業が“オープン”にしていないことが多いのではないか。オープン・イノベーションの父として知られる、ヘンリー・チェスブロウ(カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス教授)によれば、「オープン・イノベーション」とは、外部の開発力を活用したり、知的財産権を他社に使用させることで革新的なビジネスモデルなどを生み出し利益を得る考え方をいう。オープン・イノベーションのためには外部から取り入れるだけではなく、自らオープンに発信していく姿勢が求められているのではないか。

 政府主導ではなく、日本の企業から、人材をシリコンバレーへ送り出し、日本へ戻るサイクル(頭脳循環)を作り出す。成功と失敗の経験、情報を蓄積し企業間をオープンにする。これまでの終身雇用型、製造業型の教育システムをリニューアルするために、産と学がオープンに連携しインスパイアし合う。シリコンバレーから日本へ戻るサイクル(頭脳循環)を作り出す“オープン”な社会が必要なのだ。

 本年春に、民間シンクタンクの総合研究開発機構(NIRA)が主催した日米セミナーでの議論を“オープン”をキーワードにまとめてみた。

 

情報をオープンに

 日本の官僚システムの弊害として、PDCAサイクルのP(Plan)とD(Do)ばかりが行なわれ、C(Check)とA(Action)が行なわれていないというものがある。“Fear of failure” がここにも表れているのか、結果を直視し、検証しようとはしない。

 さらには、Doもせずに、ひたすら、Pだけを繰り返すことさえもある。前任者がつくったPlanningに、次の予算のPlanningをし、それを後任者に引き継ぐだけ。PPP、PPPが続くのだ。このため、PDCAを全部見る人というのは誰もいないのだ。

 しかし、これは企業にとっても同様だ。シリコンバレーに人材を送り出し、シリコンバレーをいかに企業が取り入れるかという計画も、計画・実行されるだけで、その評価、知識の共有が行なわれてきただろうか。成功・失敗の経験知は個人の経験にとどまらず、社内での共有・評価が行なわれ、蓄積されるシステムがあるだろうか。その情報のなかから、適切な情報が抽出され、経営判断するレベルまで届いているだろうか。

 オープン・イノベーションは、知的財産権を他社に使用させることで革新的なビジネスモデルなどを生み出し利益を得ることだが、日本の企業では、それ以前に、シリコンバレーの経験を社内で検証、蓄積し、他社とも共有する、“オープン”な姿勢が必要になってくるだろう。

 時には企業間で連携して、インスパイアし合う循環を作り出すこともイノベーションのきっかけになるのではないか。かつての日本の企業は、企業間で公式、非公式にであれ、より情報を共有していたはずだ。

 リチャード・ダッシャー(スタンフォード大学特任教授)は「日本のほとんどの大手会社、全部の商社は、シリコンバレーにすでに、いわゆるアウトポスト(出先機関)がある。シリコンバレーで経験した人が、日本に帰ってからどうやってその人のつくった知識を使うか。とても大事なことです」と語り、櫛田健児(スタンフォード大学アジア太平洋研究所リサーチ・アソシエイト)は「いろいろな日本の大企業、中堅の企業、アントレプレナー(起業家)が、どういうふうにシリコンバレーのエコシステムに入ろうとしたか。過去の失敗談とか成功談、ものすごい成功談はありませんが、共有して、そういうものを分析していきたい」と語っている。

 

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