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日本の底なしの「性善説」が自ら招く罠

2015年12月11日 公開

ケント・ギルバート( 米カリフォルニア州弁護士、タレント)

大失敗に終わった習近平の外交

PRCこそ「胸に手を当てて自問せよ」

 今年9月3日、中華人民共和国(以下、PRC)の習近平国家主席は、「抗日戦争と世界反ファシズム勝利70周年記念」と銘打った式典を開催し、大規模な反日軍事パレードを行ないました。

 PRCの王毅外相は、日本を標的としていることが明らかなこの軍事パレードに、海外首脳を招待すると発表した際、安倍総理を「日本の政権を握る者」と名指した上で、「まずは胸に手を当てて自問せよ」「自分の良心に尋ねてみよ」とかなり偉そうな発言をしました。

 ユーチューバー(YouTuber)のKAZUYAさんこと京本和也氏によると、PRCはヨーロッパにおいても反日工作をかなり強めているそうですが、欧米諸国は、「PRCはなぜそこまで日本に絡む必要があるのか?」という疑問しかもっていません。

 そもそも、日本との戦争でほとんど戦ってすらいない中国共産党が、いったい何様のつもりでしょうか。一党独裁政権が日本を指さして「反ファシズム」と叫ぶのは悪い冗談でしかありませんが、軍事パレードへの参加は諸外国に対して、「おまえたちはどちら側に付くのだ」と迫る「踏み絵」でもありました。

 今回の軍事パレードを見ていて思わず笑ってしまった「笑点」が、二つあります。一つ目は、式典冒頭で人民解放軍が「抗日の狼煙を上げろ」「日本を東方に駆逐せよ」と合唱していたことです。おそらく、戦時中に自力で日本に勝てなかったことが、中国人にとっては、よほどのトラウマになっているのでしょう。

 もう一つの「笑点」は、この軍の合唱を報じた中央電視台(CCTV)の映像です。この映像には、第2次大戦中に撮影された、プラカードを持ってデモ行進をする中国の人びとの古い映像が挿入されたのですが、映像の途中で「服従 領軸訓示(指導者の訓示に従おう)」と書かれたプラカードの前に、共産党最大の仇敵だった国民党のリーダー、蒋介石の顔を描いた別のプラカードが掲げられていたのです(46分51秒あたり)

 つまりこれは、「蒋介石の訓示に従おう」という映像です。何度も見直しましたが、間違いありません。

 歴史をまったく知らないのか、あるいはかなり深刻な健忘症を患っているのかはわかりませんが、これでよく日本に対して「正しい歴史認識」を迫れるものです。

「胸に手を当てて自問せよ」という有り難いお言葉は、熨斗を付けてお返し致します。

 

ユネスコへの対応が遅れた外務省にも落ち度

 ところで、今回の軍事パレードの参加者のなかに、その場にいるべきではない出席者が3名いました。ユネスコ(国連教育科学文化機関)のイリナ・ボコバ事務局長と、潘基文国連事務総長、そして韓国の朴槿惠大統領です。

 国際平和と人類の福祉促進をめざすはずのユネスコのトップが、いったい何の理由があって軍事パレードに参加したのでしょうか。じつは、女性初のユネスコ事務局長として知られるブルガリア出身のボコバ事務局長は、ブルガリア共産党機関紙の編集長を父にもち、自身もモスクワの大学を出たバリバリの親共産主義の人物です。

 今回の軍事パレードの直後、ユネスコはPRCが申請した「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産に登録するという決断を下しました。しかしその手続きの詳細はおろか、登録された資料の中身さえ明らかにされていないなど、すべてが不透明なままです。PRCから裏金でももらっているのではないかと、誰もが疑いたくなります。

 一方で、土壇場になるまでユネスコへの申請を問題視しなかった日本政府にも大きな落ち度があります。古森義久氏も指摘していますが、外務省はこの問題にタイムリーな対応をとらず、また、ユネスコという国連機関の特殊性や世界記憶遺産の登録システムの特徴を十分に把握していなかったのです。

 ユネスコの内情に詳しいある関係者は「日本側はボコバ氏が自分たちと同じ価値観を持つと思って働きかけていたが、それは間違いだった」(『産経新聞』2015年10月11日)などと、信じ難いまでの「お人好しぶり」を晒しています。つまり政府も国民も、国際機関というだけで、ユネスコ側の判断や発言すべてを頭から信用し、疑わなかったのです。これはじつにナイーブで恥ずかしい姿だといわざるをえません。

 さすがの日本政府も今回の事態に対しては怒り、ユネスコ分担金の拠出停止をも検討するといっていますが、これについてPRCは「日本がユネスコを脅迫した」と非難しました。まったく、「どの口がいっているんだ」といいたいところですが、率直にいって、拠出を完全停止する必要はありません。分担金をゼロにすると発言権を失うからです。ユネスコに対する2014年度分の国別分担金は、1位のアメリカが22%。日本は2位で10・834%を占めています。ところが偉そうなPRCは6位、比率では日本の約半分の5・14%にすぎません(『産経新聞』2015年10月14日)。日本はPRCと同じ金額だけ拠出すればいいのです。

 

日本人は「性善説」の妄想から目覚めるべき

 今回の軍事パレードには、潘基文国連事務総長も参加しました。この人も相変わらず自分が置かれた立場を理解しているとは思えませんでした。潘氏の参加に対して菅義偉官房長官は「国連は中立であるべき」「きわめて残念」と批判しましたが、これに対し潘氏はCCTVのインタビューで「一部に、国連事務総長や国連組織が中立であるという誤解があるようだ」と反論しました。

 潘氏は、韓国での人気も高く、次期大統領候補とも噂されているので、ある意味、近い将来の日韓関係が思いやられます。しかし、この潘氏の主張は「正しい」といわざるをえません。なぜなら、国連は設立当初から、けっして中立な機関ではないからです。

 国連はそもそも、第2次世界大戦のあと、「戦勝国」が中心となってつくり上げた機関であり、日本やドイツを引き続き「敵」と見なす「敵国条項」を今日までその憲章に残しているような偏った組織です。それにもかかわらず、戦後の日本人は、国際機関というだけですべてが公平・平等だと勝手に思い込み、盲目的に国連を崇め奉り、深く信仰してきたのです。

 英語の“United Nations”を普通に和訳したら、「連合国」です。「国際」を意味する単語は無い。「国際連合」という名称は意図的な誤訳でしょう。ちなみに「世界記憶遺産」という翻訳もおかしい。“Memories of the World” のなかに「遺産」なんて単語はありません。

 キッシンジャー元米国務長官は以前、「中国は伝統的に世界的な視野をもち、日本は部族的な視野しかもっていない」と指摘しましたが、残念ながら、それも「正しい」といえます。国際社会全体がじつはルールなき「性悪説」に支配されている現実から見れば、何でも「性善説」的な思い込みで他者に接する日本人に比べ、他者を信頼せず、横柄でずる賢く立ち回るPRCのほうが「世界的な視野」をもっているといえるからです。それほど、国際社会なるものの現実は厳しいのです。

 話は少しそれますが、『森のくまさん』という有名な童謡があります。これはもともとアメリカの歌ですが、日本語に訳され、多くの子どもに歌われています。ところが、じつはアメリカの原曲と日本語の歌詞はかなり異なっていることを、多くの日本人が知りません。

 日本語の歌詞では、森のなかで熊に遭遇した女性に対し、熊は「お逃げなさい」とやさしく諭してくれます。しかし熊はその後、彼女が落としたらしいイヤリングを拾い、それを返すためそのあとを追いかけるのです。しかしアメリカの原曲は、熊が森のなかで遭遇した人間に向かって、「おまえ、銃を持ってなさそうだなあ。だったら逃げたほうがいいんじゃないのか?」という警告を発した上で、しつこく追いかけ回すという内容です。

 日本人はそんな厳しい内容の歌を、底なしの「性善説」に改変してしまうのですが、このような平和的なメンタリティこそが、国連を公正中立と信じる勝手な「思い込み」や、憲法前文にあるように「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」して、自分たちの命の安全まで委ねようと「決意」し、「憲法9条が戦後の日本を守った」という危うい妄想を信じてしまう原因でしょう。この辺りも日本人は、早急に目覚める必要があります。

「公平不偏」の国連事務総長 >

iyashi

著者紹介

ケント・ギルバート(Kent Sidney Gilbert)

米カリフォルニア州弁護士、タレント

1952年、米アイダホ生まれ。1971年に初来日。1980年、国際法律事務所に就職して東京に赴任。TV番組『世界まるごとHOWマッチ』に出演し、一躍人気タレントへ。最新刊は『不死鳥の国・日本』(日新報道)。公式ブログ「ケント・ギルバートの知ってるつもり?」で論陣を張る。

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