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遠藤功 五能線に学ぶ地方創生とは

2016年08月23日 公開
2017年05月13日 更新

遠藤 功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

地方創生を実現するエンジン

 日本全国には、国内のみならず世界中から観光客を惹きつけうる魅力的な素材がいくらでも存在する。しかし残念ながら、それらの多くは素材のままであり「真珠」にまで磨き上げられていない。また、真珠があったとしても、多くは単品のままであり、より魅力的な「真珠の首飾り」になっていない。

 今年はNHK大河ドラマ『真田丸』が話題になり、主人公・真田幸村(=信繁)の上田城がある長野県上田市に多くの観光客が訪れている。しかし『真田丸』ブームもやはり「真珠」止まりで「首飾り」にならないのでは、と私は危惧している。

 真田幸村ゆかりの信濃国(長野県と岐阜県中津川市の一部)だけではなく、幸村と縁の深い武田信玄ゆかりの甲斐国(山梨県)まで広域観光の裾野を広げれば、従来の自治体の垣根を越えた「商品づくり」が可能になるはずだ。

 本稿で紹介した五能線の発想に学べば、全国あらゆる市町村に逐一、観光課を設置する必要はないと私は思っている。必要なのは、広域観光を推進させるエンジンだ。たとえば、広域自治体で一つの観光協議会を開設し、そこへ各自治体から職員を出向させることによって、部分的、単発的、散発的ではない「真珠の首飾り」が生まれる可能性は大きく高まる。

 現在の47都道府県という枠を取り払い、旧藩や令制国の地域区分で物事を考えたほうが、新たなアイデアが生まれ、観光立国の機能が高まるだろう。五能線の場合は、北東北という広域協同によって点から線、そして面への広域観光を実現させた。同様のことは他の地域、関西圏や中国・四国、九州などにも当てはまる。

 いま日本全国を走る観光列車やリゾート列車が、たんなる鉄道人気で終わってしまうのはあまりにもったいない。大都市圏と地方を線路で結び、「真珠」をつなげて「首飾り」を完成させる鉄道は、地方創生を実現する大きな推進エンジンになりうる。個性的で魅力溢れる「真珠の首飾り」をつくることができれば、それが地方の活性化につながることを、五能線は証明している。

著者紹介

遠藤 功(えんどう・いさお)

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。経営コンサルタントとして、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。ローランド・ベルガーワールドワイドのスーパーバイザリーボード(経営監査委員会)アジア初のメンバーに選出された。株式会社良品計画 社外取締役。ヤマハ発動機株式会社 社外監査役。損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社 社外取締役。日新製鋼株式会社 社外取締役。コープさっぽろ有識者理事。『現場力を鍛える』『見える化』(以上、東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)など、ベストセラー著書多数。

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