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藤井聡 インフラ事業の「冤罪被害」

2016年12月19日 公開

藤井聡(京都大学教授、内閣官房参与)

「豊洲」の空騒ぎで都民自身が被害を受ける

泡沫に過ぎない角栄ブーム

 いま、「田中角栄」がブームになっている。本屋には石原慎太郎の『天才』(幻冬舎)をはじめ、多くの角栄本が平積みになっている。「いま、なぜ角栄?」と感ずる国民も多かろうと思うが、「閉塞した日本の状況を打開するためには、強いリーダーシップが必要だ」という潜在的な気分が共有されているがゆえに生じた、泡沫のブームなのだろう。いわばそれは、「角栄」という最近では珍しいアクの強い「キャラ」が受けているという程度の話なのだ。

 実際、田中角栄がその「リーダーシップ」を駆使して徹底的に進めようとした大国家プロジェクト「日本列島改造論」については、何の理解も得られていないのが現状だ。

 列島改造論とは角栄が政権奪取時に掲げた政策理念で、自身が著者となり出版した同名書籍は大ベストセラーとなり、一世を風靡した。角栄はその書籍のなかで、地方の過疎と都市の過密を一挙に解決し、日本の伝統的な「故郷」を再生することの必要性を力強く主張。そして「工業再配置と交通・情報通信の全国的ネットワークの形成をテコにして、人とカネとものの流れを巨大都市から地方に逆流させる“地方分散”を推進する」ために列島改造が必要だと訴えた。

 この「列島改造論」ブームは、角栄の国民的人気をさらに確固たる不動のものに仕立て上げた。角栄はその国民的大人気を背景に全国のインフラ整備の推進を図った。その結果、全国に新幹線や高速道路等が構想され、それを推進する体制が整備された。

 

昭和史の闇に葬られた「列島改造論」

 しかし、「列島改造論」に基づく拡張財政路線は、じつはわずかな期間しか継続しなかった。総理就任から一年四カ月後、積極財政派の愛知揆一大蔵大臣が急死、後任に元大蔵官僚で均衡財政論者の福田赳夫を起用せざるをえなくなったからだ。結果、列島改造論の施策展開は大きく後退する。

 しかも列島改造論ブームで、その開発対象とされた地域では土地の買い占めが横行し、地価が高騰。これが「狂乱物価」をもたらしたと批判された(とはいえ実際は、この物価高騰には第1次オイルショックが決定的影響を与えていた)。

 ただし、列島改造論の「終焉」において決定的だったのはロッキード事件だった。この巨大汚職事件で「公判で有罪判決を受けた唯一の総理大臣」となってからは、列島改造や公共事業は、「金権政治(カネで権力を強化しながら進められる政治)」を進めるためのたんなる「レトリック」だったと批判されるに至る。つまり、多くの国民は角栄をたんなる詐欺師、列島改造や公共事業をたんなる詐欺のためのウソ話、と見なすに至ったわけだ。いわば国民的大人気を博した角栄が、じつはたんなる犯罪者だった――という思いが、日本国民において「裏切られた!」という気分を惹起、その恨みゆえに公共事業や列島改造論に対して激烈に否定的な感情を呼び起こすに至ったのである。

 結果、「列島改造論」は昭和史の闇の中に葬り去られてしまう。そして「公共事業」は何やら悪しきネガティブなものという烙印を押され、「汚職」「不正」の温床となる「無駄」なものという文脈で語ることが当たり前となってしまった。むしろ、公共事業をバッシング・批判することが「正しき振る舞い」「インテリの証し」となり、逆に公共事業を擁護するのは、「不道徳」「知性の欠如の証し」であるかのような空気にわが国は支配されたのである。

 

豊洲、オリンピックの大騒ぎは「冤罪」話と同じ

 あれから40年、いまだに「公共事業」をめぐる世論のイメージは何も変わってはいない。というよりもむしろ「悪化」しているのが実態だ。

 いま、世間を騒がせている「豊洲市場の盛土問題」はまさにその一例だ。その「発覚」当初、マスコミでは「盛土すべきところに土がない手抜き工事だ! 結果、工事が不当に安く行われ、浮いたカネが『闇』に消えた!」と連日連夜、大きく報道された。そして、それを進めたのが「悪玉の都議会の自民議員」(そしてそのドンはもちろん“内田茂”)で、その「闇」に切り込んだ救世主こそが「小池百合子東京都知事」だ、という“脚本”での報道が繰り返された。

 同じく、小池知事が切り込んだものとして描写されたのが「オリンピック施設問題」だ。公共事業で進められたいくつかのオリンピック施設は不当に値段が吊り上げられている、実際、予定価格の99%以上の値段で落札されており、行政とゼネコンのあいだで「談合」の上で発注額が決められ、ゼネコンが不当にカネを儲けている――という構図で報道され続けた。そしてそんな公共事業利権目当てに、古い自民党の象徴・森喜朗元首相を中心とした利権目当ての政治家たちが暗躍し、都民、国民の税金が貪り食われている――という論調が繰り返された。

 しかしこれらの論調は皆、田中角栄の金権政治を理解するときのパターンと同様に「公共事業は汚職の温床」という「色眼鏡」であらゆる公共事業を認識しているところから来るものにすぎない。

 実際、豊洲市場の建物の下の空間は「地下ピット」と呼ばれるきわめて一般的な構造で、かつ「盛土」よりも「より衛生的」であることが複数の技術者から指摘されている。たとえば、「問題」発覚後に東京都に正式に設置された「市場問題PT(プロジェクトチーム)」においてすら、複数の専門家がその事実を声高に主張している。あるいはゼネコンの落札額が「予定価格」ぎりぎりであったことについては、優秀な技術者なら誰でも予定価格をほぼ正確に予期できることは当たり前だ、ということもまた複数の専門家が指摘していることだ。

 つまり、このたびの豊洲やオリンピックの「公共事業」をめぐる大騒ぎは、何もことさら騒ぎ立てる話ではなかった疑義がきわめて濃厚なのだ。それはさながら「村の中でいったん犯罪者だと疑われてしまった『無実の少年』が、何をやっても『やっぱりこいつは犯罪者だ!』と決めつけられ、叩かれる」という「冤罪」話と同じ構図にあるのである。

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著者紹介

藤井 聡(ふじい・さとし)

京都大学教授・内閣官房参与

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科修了後、同助教授、東京工業大学教授などを経て、現職。専門は国土計画論、公共政策論、土木工学。社会的ジレンマ研究にて、日本学術振興会賞など受賞多数。近著に、『巨大地震【メガクエイク】Ⅹデー』(光文社)がなどある。



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