ホーム » Voice » 社会・教育 » 小浜逸郎 老人運転は危険か

小浜逸郎 老人運転は危険か

2016年12月22日 公開

小浜逸郎(批評家)

「高齢者ドライバーの交通事故激増」のウソを暴く

免許返納制度強化への異論

客:久しぶり。この前会ったときよりだいぶ老けたな。

主:なにしろ、もうすぐ古希だからな。そういうおぬしも人のことは言えんぞ。

客:そりゃそうだ。ところで君はまだ運転やってるのか。

主:何だ、やぶからぼうに。まだやってるよ。仕事で必要だしドライブは好きだからな。

客:いや、最近ほら、高齢者ドライバーが起こす事故が連続して起きているだろう。ここに新聞を持ってきたんだが、11月12日、立川市で乗用車が歩道に乗り上げ2人死亡。10日には栃木県で乗用車がバス停に突っ込み3人死傷。10月28日には横浜市で軽トラックが小学生の列に突っ込み7人死傷。13日にも小金井市と千葉県で交通死亡事故。運転していたのはいずれも80歳以上の高齢者とある。こう続くと俺も運転するのが怖くなってくる。

主:たしかに年を取ると、自分ではちゃんとしているつもりでも判断能力や運動神経がどんどん鈍ってくるからな。俺も気を付けるようにしてはいるけどね。

客:しかしこの横浜の事件では、認知症の疑いがあったそうだ。認知症だったら「気を付ける」なんて次元の問題じゃないだろう。

主:その人はいくつだったの。

客:87歳。

主:87歳かあ。そんなに高齢じゃ、認知症を疑われるのも無理はないな。家族がちゃんと監視して運転をやめさせるべきだな。

客:いや、1人住まいだったのかもしれない。孤独な老人が増えてるからな。それに、認知症でなければいいのかというとそうも言いきれないだろう。あと数年で俺たち団塊も75歳だぞ。こういう事件がどんどん増えるんじゃないか。

主:でも、地方の過疎地域なんかでは車がないと買い物にも医者にも行けない人が多いんだろう。簡単に免許返納というわけにもいかんじゃないか。

客:自動運転車の早期実用化や地域の協力体制が求められるな。でも、それを待っているあいだにも事故は起きるだろうしな。だから、どうしても規制強化が必要だと思う。

主:いまの道交法では、高齢者の免許に対する規制はどうなっているんだっけ。

客:75歳以上の免許更新時に認知機能検査をやって、「認知症の恐れがある」とされても、交通違反がなければ免許の取り消しとはならないんだそうだ。これははなはだ不十分だな。で一応、2017年3月の改正道交法では、「恐れがある」場合には医師の診断が義務付けられて、認知症と診断されると免停か取り消しになることになってる。俺はこれでも甘いと思うよ。さっき言ったように、認知症でなくたって危ないからな。

主:そうすると、君の考えでは、免許返納を制度面で強化することと……。

客:うん。高齢者の自覚を促すキャンペーンを盛んにして、家族もこれに協力して自主的な免許返納のインセンティブを高める必要があると思う。俺ももうそろそろ免許証を返上しようかと思ってるよ。君も考えたほうがよさそうだぞ。自信過剰は最大の敵だ。

主:なるほど。われわれは都会に住んでるから、車がなくてもなんとかやっていけるしな。でも俺の場合はいまのところどうしても必要だから、できるだけ慎重な運転を心掛けて、もうちょっと続けることにするよ。ところでこれはけっして自信過剰で言っているんじゃなくて、免許返納制度の強化というのにはちょっと異論があるな。

客:どうして? 免許を更新するときにもっと厳しいテストを課せばいいじゃないか。

主:それは口で言うのは簡単だけど、膨大な免許保有者に対していちいち時間のかかる厳しいテストを課すことが、いまの警察の限られた交通安全対策施設や人員で可能だろうか。

客:それは、ITをフルに活かした最新鋭の診断システムを導入するとか、早急に増員を考えるとかすればいいだろう。

主:それだって、そうとう時間がかかるぞ。君がさっき言っていたとおり、そういうシステムが整うのを待っているあいだにも事故は起こるだろう。しかも一律規制を厳しくして、テストに引っ掛かった過疎地の人はどうするのかね。

客:……。

高齢者が起こす事故は本当に多いのか >

iyashi

著者紹介

小浜逸郎(こはま・いつお)

批評家

1947年、横浜市生まれ。横浜国立大学工学部卒業。 2001年より連続講座「人間学アカデミー」を主宰。家族論、教育論、思想、哲学など幅広く批評活動を展開。現在、批評家。国士舘大学客員教授。著書に、『日本の七大思想家』(幻冬舎新書)、『デタラメが世界を動かしている』『13人の誤解された思想家』(ともにPHP研究所)など多数。

関連記事

編集部のおすすめ

救急医がすべきこと、すべきでないこと―「命」の現場での判断

角由佳(順天堂大学医学部附属浦安病院救急診療科先任准教授)


アクセスランキング

  • Twitterでシェアする
iyashi

21世紀のよりよい社会を実現するための提言誌として、
つねに新鮮な視点と確かなビジョンを提起する総合月刊誌です。