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受動喫煙防止法は実現するのか

2017年01月28日 公開

取材・構成=編集部

各分野が抱える千差万別な現場の事情

建物内禁煙と敷地内禁煙

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを機に、2017年1月の通常国会に受動喫煙防止の法案を提出しようとする動きが見られる。 

 2016年10月31日と11月16日の両日には、受動喫煙防止対策強化検討チームワーキンググループの「公開ヒアリング」が開催された。

 関係団体へのヒアリングに際して、厚生労働省からは「たたき台(受動喫煙防止対策の強化について)」が示された。文面には「日本のスモークフリー元年を確実に実現するため、イギリスと韓国の混合型の制度を導入する」という「基本的な方向性」が記されている。

 また「受動喫煙防止対策の実効性を担保するための措置」として「勧告、命令等を行い、それでもなお義務に違反する場合には罰則を適用することとする」とある。

 ここでいわれる「イギリスと韓国の混合型の制度」とは何か。現在、わが国では「原則として建物内では喫煙できないが、建物に設置された喫煙室で吸うのはOK」という「原則建物内禁煙(喫煙室設置可)」が一般的である。

 しかし今回、厚生労働省は現状の対策では不十分であるとの認識を示し、さらに以下の範囲まで受動喫煙防止対策を拡大する案を「たたき台」に盛り込んだ。

「建物内禁煙」=建物内の喫煙室の設置も認めない全面禁煙
「敷地内禁煙」=建物内はもちろん、屋外であっても、敷地の範囲内では喫煙ができない全面禁煙

 仮にこれらが法制化され、罰則を伴うようになれば、何が起きるだろうか。公開ヒアリングに出席した関係団体の意見を伺い、事情を探ることにした。

 

現実的なアイデアを探るべき

 今回の公開ヒアリングで印象的だったのは、関係団体の各分野が抱える千差万別ともいえる現場の事情である。たとえばシガーバーや麻雀店のように、喫煙者が店舗を選好する場所では、たばこを吸わない人がその店へ行き、意に反した煙を吸う可能性は考えづらい。最近は禁煙雀荘もあり、非喫煙者は店を選択することができるという(全国麻雀業組合総連合会)。

 あるいは揺れる海上で長期間、航海をする乗組員に、デッキなど「建物外」で吸うことや全面禁煙を強制するのは難しい。現実にはキャビン(船室)の一角で吸うことが多く、積み荷や船員を収容する船の構造上、喫煙室を設置するスペースも確保しづらいという(日本内航海運組合総連合会、日本船主協会、日本外航船協会)。

 日本民営鉄道協会運輸調整部長の滝澤広明氏は、喫煙号車が廃止されていく流れのなかで「近鉄(近畿日本鉄道)の電車に喫煙できる号車が残されているのはなぜなのか」という受動喫煙防止対策強化検討チームワーキンググループの質問に対し、近鉄の乗車時間の長さを挙げた。たしかに鉄道もサービス業である以上、長時間サービスを受ける喫煙者にも何らかの対応をすべき、と考えるのは自然である。

 このように、あらゆる場所で「例外なく」建物内禁煙や敷地内禁煙を適用することには、どうしても限界や問題が伴う。

 最も端的な例が、終末期医療の現場である。今回、公開ヒアリングに出席した日本ホスピス緩和ケア協会は、終末期医療に携わる施設や病院等で構成されており、生命予後の短い(平均在院日数:30日前後)患者をケアする、という特有の事情がある。

 同協会が正会員の加盟三311施設を対象に行なった「喫煙に関する調査」によれば、3割近い病棟が何らかのかたちで生命予後の短い患者の喫煙習慣に配慮し、喫煙を許可しているという。理事長の志真泰夫氏が語る。

「今回のヒアリングでは、協会として以下3点の要望を致しました。

 1つ目は、生命予後の短いがん患者が多数入院する病棟の現状から『原則建物内禁煙(喫煙室設置可)』としていただきたい、という点。

 2つ目は、患者が喫煙する場合は、看護師等の病棟スタッフは付き添わないことを原則とするように推奨していただきたい、という点。

 3つ目は、診療報酬に定める施設基準等は、このような緩和ケア病棟の状況に配慮して、(たとえば『総合入院体制加算1の施設基準』に定められているように)特例を継続していただきたい、という点です」

 1つ目に関し、人間の自然な感情に照らして細かな説明は不要と思われる。2つ目に関して、生命予後の短い患者が部屋を出て喫煙するにあたっては、少なからぬハードルが存在する。多くの患者は施設内の喫煙室や屋外の庭、テラスなどでたばこを吸うが、施設や病院によっては近所の敷地への外出許可を得なければならない場合や、涙ぐましいケースでは一時帰宅を申請し、わざわざ自宅へ戻って吸う患者もいる、という。

 さらにホスピス・緩和ケア病棟内で患者が移動する際、看護師などの病院スタッフが付き添うことになっている。しかし喫煙のときに付き添いを行なうかどうかはまさに受動喫煙に関わる問題であり、対応が難しい。実際、同協会の調査(同前)では「付き添う」が24%、「状況によって付き添う」が42%、「付き添わない」が34%と結果が分かれている。

 3つ目の診療報酬に関し、同協会の「喫煙に関する調査」アンケート回答のなかには、病院を全面禁煙にした理由に「病院で禁煙外来が設置されたため」「病院機能評価認定のため」との記載が見られた。受動喫煙対策が診療報酬の制度にダイレクトに組み込まれるようになれば当然、病院の経営に直結する。

 志真理事長は次のように語る。

「日本医療機能評価機構が数年前、病院の質を評価する施設基準(病院機能評価)の1つとして『敷地内禁煙』を新たに加えました。全国の病院の約4分の1が同基準を満たしており、なおかつ緩和ケア病棟をもつ病院は、病院機能評価をクリアしていることが開設の前提になっています。今後、病院全体における敷地内禁煙の流れは現状の徹底という意味で肯定的に捉えています。しかし、ベッド数が200床未満の中小病院、あるいは精神科病院では病院の敷地内禁煙がなかなか難しい、との声が上がっているのも事実です」

 では、どうすればよいのだろうか。厚生労働省の「たたき台」のように、現状では受動喫煙防止対策の効果が上がらないので、罰則付きの法律をつくるべきなのか。

「もちろん、受動喫煙防止対策が必要である点はいうまでもありません。そのうえで、社会が自発的に受動喫煙のない環境づくりに向かうのか、あるいは法律の強制力のみに頼るのか、その差は思いのほか大きいと私は思います。将来的には、わが国の喫煙者がさらに減少していく傾向にあると思います。喫煙者の減少を待ちながら一定の経過措置の期間を設ける、という対応も考えられます。一挙に敷地内禁煙に踏み込む前に、先ほど述べたホスピス・緩和ケア病棟は『原則建物内禁煙(喫煙室設置可)』を『特例』として認めていただくことが長い目で見て有益である、と思います。

 官民が知恵を絞り、現実的に対応するアイデアを探ることが最善ではないでしょうか」(志真理事長)

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iyashi

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