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トランプ対ハリウッド

2017年03月01日 公開

村田晃嗣(同志社大学法学部教授)

政治に「介入」するハリウッド

 ただ、本稿の関心からすると、レーガンとトランプには顕著な共通点がある。それは、ハリウッドの主流派を敵に回している点である。レーガンの大統領選挙では、フランク・シナトラやディーン・マーティン、ボブ・ドール、チャールトン・ヘストン、そして、ジェームズ・スチュアートら錚々たるセレブたちが応援に駆けつけた。だが、ハリウッドの主流派、とくに若手たちははるかにリベラルであり、かつて「赤狩り」に協力したレーガンを嫌っていた。だからこそ、彼の元に馳せ参じたセレブたちは皆、旧世代に属する大物たちだったのである。レーガンの政敵たちは彼を「元俳優」と揶揄したが、この「元俳優」に最も冷淡な産業界は、ほかならぬハリウッドであった。

 トランプは不動産で財を成し、テレビで知名度を上げたが、映画とも縁が深い。たとえば、ロバート・ゼメキス監督『バック・トゥ・ザ・フューチャー PARTⅡ』(1989年)で、タイムスリップのために歴史が歪み、荒廃した街を、ビフ・タネンという強欲な大富豪が支配している。これはトランプがモデルである。さらに、この映画では、ビフの支援を受けて、リチャード・ニクソンが1985年にも5期目の大統領を務めている。ベトナム戦争も続いている。80年代のトランプやニクソンへの否定的なイメージがうかがえよう。クリス・コロンバス監督『ホーム・アローン2』(1992年)に、トランプがカメオ出演していることも、いまではよく知られている。こちらはニューヨークの経済的成功のアイコンであろう。

 2016年の大統領選挙でも、トランプを支持するハリウッドのセレブはいた。たとえば、ジョン・ヴォイトやスティーブン・ボールドウィンがそうである。だが、より多くの、そして、より著名なハリウッド・セレブたちは、トランプに批判的であり続けた。ウォルフガング・ペーターゼン監督『エアフォース・ワン』(1997年)に登場する大統領を好きだと、トランプが語ると、主演したハリソン・フォードは「彼が大統領(プレジデント)? 見習い(レジデント)かと思った」と皮肉った。バラク・オバマを支持してきたリベラル派のジョージ・クルーニーも、トランプを「外国人嫌いのファシスト」と痛罵した。ロバート・デニーロに至っては、「あいつの顔を殴ってやりたい」とすら公言した。トランプの大統領当選後も、ゴールデングローブ賞の授賞式で、メリル・ストリープが彼を暗に批判し、トランプは得意のツイッターで「ハリウッドで最も過大評価されている一人」と、彼女に反撃した。

 ハリウッドが政治に「介入」しようとするのは、いまに始まったことではない。古くは、多くの映画人がフランクリン・ローズヴェルト大統領に期待し、ローズヴェルトを美化する映画を製作した。また、1964年には、スタンリー・キューブリック監督『博士の異常な愛情』とシドニー・ルメット監督『未知への飛行』が、共に偶発核戦争の危険を描いている。共和党の大統領候補だったバリー・ゴールドウォーターが、米ソ核戦争も辞さないほどのタカ派と目されたからである(ちなみに、当時高校生だったヒラリー・クリントンは、熱心にゴールドウォーターを応援していた)。2004年にも、マイケル・ムーアが『華氏911』を監督して、ジョージ・W・ブッシュ大統領の再選を阻止しようとした。

 

「一つのアメリカ」というメッセージ

 最近のハリウッド映画からも、反トランプ的なメッセージを容易に読み取れよう。

 クエンティン・タランティーノがそうである。彼は2012年の大統領選挙の折にも、『ジャンゴ 繋がれざる者』を手掛けていた。南北戦争の前に、自由黒人が早撃ちの達人になり、ミシシッピーのプランテーション農場で奴隷として酷使されている妻を救いに行く物語である。共和党保守派が議会で多数を占めるなかで、苦悩するオバマ大統領へのエールであろう。

 そのタランティーノが、2015年には『ヘイトフル・エイト』を発表した。今度は、南北戦争後のワイオミングの山中が舞台である。ここで黒人の賞金稼ぎや南軍の元将軍、保安官と犯罪者ら、ワケありの8人が疑心暗鬼のなかで一夜を過ごす。やがて、血で血を洗う殺し合いが展開するが、最後には黒人と白人との和解が示唆されている。しかも、黒人の賞金稼ぎは、エイブラハム・リンカーン大統領と文通していたそうで、(真偽のほどは明らかではないが)大統領からの手紙を持ち歩いている。白人のアメリカでも黒人のアメリカでもない「一つのアメリカ」、「イエス、ウィ・キャン!」というオバマのメッセージである。

 ウォルト・ディズニーによるリッチ・ムーア監督『ズートピア』(2016年)は、文明化した肉食動物と草食動物の共存する世界を描いている。主人公の少女はウサギ初の警察官になる。しかし、ズートピアにもさまざまな偏見が渦巻いており、主人公はそれに立ち向かう。これも「一つのアメリカ」、多様性の尊重、差別の克服というわかりやすいメッセージを発しており、とくに、向上心旺盛な主人公は、女性初の大統領をめざしたヒラリー・クリントンを連想させよう。

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著者紹介

村田晃嗣(むらた・こうじ)

同志社大学法学部教授

1964年、兵庫県生まれ。同志社大学法学部卒業。98年、神戸大学博士(政治学)。99年、『大統領の挫折』(有斐閣、1998年)でサントリー学芸賞、2000年、『戦後日本外交史』(共著、有斐閣、1999年)で吉田茂賞を受賞。13年4月から16年3月まで同志社大学学長を歴任し、現職。著書に『レーガン』(中公新書、2011年)など。


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