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大前研一 高齢者のマインドを変えれば、日本経済は飛躍的に伸びる

2017年03月24日 公開
2017年04月21日 更新

大前研一(経営コンサルタント/ビジネス・ブレークスルー代表取締役)

「資産はキャッシュを生む」を国民の特技に

 ――高齢者の消費を増やすためには具体的にどんな提案をすればいいのでしょうか。

 大前 まず、安倍首相が「いざというときは国が責任もって面倒見るので、安心してお金を使ってください」というメッセージを発信する。

 次に、こういう人生の楽しみ方があるというのを、政府が国民に紹介し、国民運動にまで高めていく。最近、日本人の家族旅行の日数が、ようやく年間で平均2・0日になった。これではリタイアして、世界のリゾート地でのんびり過ごそうと思っても、過ごし方がわからず時間を持て余してしまうのも無理はない。

 それで、いま人気なのが、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」。一流ホテルのような内装の車両で、耳納連山や慈恩の滝、伐株山といった九州地方の絶景を眺めながら、博多を代表する「すし割烹 やま中」の寿司を堪能できる。3泊4日の旅程で、2人で100万円を超えるというから決して安くはないが、申し込み倍率は100倍に達することもある。しかも10組に1組は帰るときに次回の予約をしていくという。〝すべてお任せ”というところがレジャーに慣れていない日本人に向いているのだろう。これはこれで悪くはない。だが、本当に彼らのニーズに合致しているかといったら、残念ながらそうだとはいえない。正直なところ夫婦で120万円払うなら、もっといろいろな楽しみ方が考えられる。

 しかし、イタリア人のように現役時代からバケーション・ファーストで生きてきていないと、最後にそうとう貯金が余りそうだと気が付いて出来合いのものに大枚をはたく「やけっぱち消費」になってしまうのだ。だから、山の日をつくって休日を1日増やすより、(子供や孫たちと一緒に過ごせる)有給休暇はすべて使い切るのを義務にするくらいのことを、国はやればいいのである。

 それから、「資産はキャッシュを生む」という発想が日本人には乏しいため、政府がこれを教え、国民の〝特技〟に育てていく必要がある。たとえば、親子3世代住宅など子供が巣立ってしまって夫婦2人で住んでいるなら、空いている部屋を使ってAirBnB(エアビーアンドビー、宿泊施設・民宿を貸し出すサービス)をやるのを推奨するのだ。日本は外国人旅行者が増えて、都市部のホテルの稼働率が9割を超えている状況だから、立地条件がよければかなりの収入が期待できる。

 また、金融機関にはアセット・バックト・セキュリティ(ABS=資産担保証券)の商品化を促す。そうすると、2階建ての建物を所有している人に、これを5階建てに建て替え、下3階は貸し出しにして、自分たちは4、5階に居住し、1階から3階の将来の賃貸料を抵当に入れて資金を借りませんかという提案ができるようになる。こうした借金無しの安定収入が増えれば、「いざというときの心配」という国民病も克服できる。

 ただし、東京だと、美濃部亮吉・都政時代に定められた日照権条例(一九七八年)があるために、自分の土地であっても自由に建物が建てられない。そこで、この条例を二十年棚上げにする。さらに、国土交通省の役人が鉛筆をなめながら決めただけで、安全係数とはいっさい関係ない容積率を緩和して、ニューヨークやパリ並みにすれば、買い手はいくらでもいるはずだ。あるいは地方に権限を移譲して、それぞれの地方自治体が地元の学者などと連携して独自の容積率などを決められるようにするのもいいだろう。

 こうして、資産がキャッシュを生むというやり方を教え、それをやりやすいように規制を緩和すれば、高齢者も安心して手持ちのお金を使えるようになるはずだ。これこそが日本に最もふさわしい「(高齢者を駆動力とする)成長戦略」といえる。

 最後の一つが、税制改革。相続税をやめて資産課税にするのだ。いまの相続税は最高税率が50%超と非常に高い。だから、たとえ一部を子どもに生前贈与しても、子どもは親が亡くなったとき納税することを考えて使わないで取っておく人が多い。せっかく相続を受けても、それを消費に回せないのだ。ところが、資産課税に移行してしまえば、税収は相続に対して中立だから、いつ相続しても良いし、税収は相続人から同じだけ入ってくるので目減りすることもない。

 一般に、成熟国ではフローよりもストックに課税対象を移す、というのが常識だ。途上国なら毎年のように給料は上がるし会社も利益が出るから、フローに対して税金をかけると効率よく徴税できる。だが、日本のような成熟国では、大幅な所得の伸びは期待できない代わりに資産は増えている。だから、ストックである資産に税金をかけるのが理にかなっているのだ。

 税金を資産課税1%と付加価値税10%に集約し、残るすべての税金を廃止する、というのが私の提案だ。それでもいまの税収よりは大きくなる。人口衰退・高齢化社会にいつまでも途上国のような税制を適用して国民を萎縮させている。

 一方、景気浮揚策として財投、マネーサプライ、金利で経済浮揚を図る、というのは20世紀の高度成長時代の手法だ。安倍政権の(いまや)〝六本の矢〟は滑稽なくらいに的外れとなっているのだ。

(聞き手・構成:山口雅之)

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