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「著者に聞く(石 平)」『なぜ中韓はいつまでも日本のようになれないのか』

2017年04月19日 公開

石 平(評論家)

なぜ「公」の精神が育たなかったのか

 ――1853年の黒船来航後、西洋近代文明の力を思い知らされた日本は、アジアのなかでいち早く近代化に成功しました。これに比べて中国(清)や朝鮮(李氏朝鮮)の歩みは遅かったといえます。

  そうですね。たとえば日本における政治体制の近代化は黒船来航から明治維新(1868年)まで、わずか15年で成し遂げた。一方で中国はアヘン戦争(1840年)から辛亥革命(1911年~)まで70年以上もかかってしまった。なぜか。中華思想のためです。中国の指導者や知識人は、最後まで西洋文明の優位を認めたくなかった。西洋は野蛮人であるという考えから抜け出せなかったんです。

 しかし、清国は英仏との戦争に相次いで敗れた結果、武器の力は認めざるをえなくなった。そこでドイツから最新鋭の軍艦を購入し、東洋一といわれた北洋艦隊をつくった。ところが、清は戦力ではるかに劣る日本海軍に完敗してしまった。西洋同様に野蛮な国と思っていた〝小日本〟に敗れたことで、当時の知識人たちはようやく日本風の文明開化の必要性に気付いたんです。

 ――日清戦争後、孫文のほか、多くの知識人が中国から日本に留学しました。

  そのとおりで、中国に近代革命を輸出したのは日本だといえるでしょう。

 中華思想に加え、中国の近代化が遅れたもう1つの理由は、「公」の精神の欠如です。高杉晋作がわずかな部下と共に倒幕に向けて決起したのは、上海留学中、清国人が奴隷のように扱われていたのを見て「このままでは日本も西洋列強の植民地にされる」という危機感を抱いたからです。そこには「国のために死ねるなら本望だ」という武士道精神があった。

 ――清国や李氏朝鮮の末期は、西洋文明を拒否する頑迷な態度もさることながら、派閥争いや汚職の蔓延でむしろ自滅していった感があります。なぜ彼の国では「公」の精神が育たなかったのでしょうか。

  日本では、権威を司る天皇と権力を司る武家によって統治構造が二元化されています。また将軍家が全国の土地を直接支配しているわけではなく、地方の統治は藩主に任されており、藩ごとに独自の気風が生まれた。自治の裁量を任された武士たちのあいだには「御家のために」「領民のため」という「公」の精神が自然と育つことになったんです。

 一方で中国や朝鮮は、皇帝・国王が宗教的権威と世俗の権力を併せ持つ「一元化権力構造」であり、官僚たちはその手足にすぎませんでした。なにしろ土地や人民は皇帝様、王様の私有財産なのですから、それに仕える官僚にも「公」の精神が育つわけがありません。むしろ皇帝や国王に倣って、自分たちも私腹を肥やそうとする。少しでもいいポストに就こうとして賄賂が横行する。民からは搾り取るだけ搾り取ろうとする。こうして産業化に不可欠な民間における財産の蓄積が不可能になってしまったんです。

 ――現代の日本にも汚職はあるが、中国や韓国の度合いと比べると、かなりマシだとはいえそうです。ただ、中国や韓国も戦後数10年たってようやく工業化に成功し、その意味では近代化したともいえます。そのわりに民主主義や法治主義が根付かないのは、どうしてなのでしょうか。

  誤解してはならないのは、工業化は近代化の1つの要素にすぎないということです。工業化を土台として、その上に法治主義や基本的人権の遵守、報道の自由が根付いて初めて近代化したといえる。その意味でいまの中国や韓国では、近代化に逆行する動きすら出ています。習近平政権は躍起になって汚職を摘発していますが、あのように庶民の喝采を集めて権力基盤を強化することは、昔の皇帝の常套手段でした。韓国でも、贈賄疑惑で朴槿惠大統領が辞任に追い込まれるという「前近代性」を顕わにしています。

 ――そのような国と日本はどのように付き合えばよいでしょうか。

 石 1つは、日米同盟を基軸として防備を固めること。もう1つは、中国大陸とは一定の距離を保ち、深入りしないことです。〝小中華〟の韓国に対しても同じ事がいえます。2015年末の日韓慰安婦問題の合意は、それを象徴するような失敗です。対日合意によって逆に韓国の世論は硬化し、慰安婦像が乱立するような事態を招いてしまった。無理に近代国家同士の大人の関係を築こうとすると、必ず裏目に出てしまう。あちらは前近代国家だという諦めの境地で付き合っていくべきでしょう。

iyashi

著者紹介

石 平(せき・へい)

評論家

1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。1988年来日、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。著書『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)が第23回山本七平賞を受賞。

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