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小浜逸郎 サイコパスは生まれつきか

2017年04月28日 公開

小浜逸郎(批評家)

遺伝か環境かという決定論に陥るな

独り歩きして濫用される言葉

『言ってはいけない』(橘玲著・新潮新書)や『サイコパス』(中野信子著・文春新書)がよく売れているそうです。背景には、相模原障害者施設殺傷事件や小金井女子大生傷害事件の加害者がサイコパスではないかとの世間の判断があると思われます。森友学園問題の渦中の人もそういう悪口を叩かれました。一度ある言葉が流行ると、独り歩きして濫用されます。

「サイコパス」とは精神医学用語です。もともとは「精神病質」と訳されていましたが、その適用対象が時代とともに変遷し、現在では「反社会性人格障害」と訳されています。

 犯罪心理学者のロバート・D・ヘア氏はサイコパスを以下のように特徴付けています。

 ①良心が異常に欠如している ②他者に冷淡で共感しない ③慢性的に平然と噓をつく ④行動に対する責任がまったく取れない ⑤罪悪感が皆無 ⑥自尊心が過大で自己中心的 ⑦口が達者で表面は魅力的

 こういう傾向をもった人は昔から一定割合でいましたし、また他の変人、異常性格者、精神病者と同じように程度問題で、グラデーションを成しています。サイコパスのすべてが犯罪者ではないし、逆に犯罪者のすべてがサイコパスであるわけでもありません。

 

進化心理学は疑似科学

 ところで、冒頭に挙げた2著に共通しているのは、両者とも、多くの外国の研究を紹介しながら、このサイコパスが遺伝性によるものではないかという考えを提出している点です。つまり成育環境の影響によるよりも、生まれつき普通の人とは違った種族なのだという印象を読者に与える効果を醸し出しているのですね。もっとも、中野氏の著書のほうは、脳科学の専門家らしく、かなり慎重な記述を取っています。これに対して橘氏の著書のほうは、かなりその面を強調していて、その点、ある意味で刺激的であるともいえます。

 ここでは、両著の批評を試みようというのではありません。

 ちなみに一言だけ感想を申し上げておくと、両著とも英米系で発達した進化心理学なる学問にかなり信頼を置いているようですが、私自身は、この学問の方法原理をあまり信用していません。それには2つの理由があります。

 1つは、自然界に見られる「種の形態的変異」の多様性を進化によって説明したダーウィンのオリジナルを、そのまま人類社会における「個体(個人)の心」の変異に適用することに無理を感じるからです。「人類社会」という、それ自体自然と関わりつつ変異を重ねていく1つの「種」を、自然環境と同一視しているのです。

 もう1つは、進化心理学は、自分(この場合も「種」全体ではなく特定個体群です)の子孫の維持繁栄のための「戦略」という言葉を好んで用いますが、戦略というからには、初めからある目的を意識して特定の手段を用いる「主体」を想定しなくてはなりません(心理学なのですから)。ところが進化心理学は、その主体があたかも遺伝子それ自体であるかのような曖昧な擬人法を用います。それは「神のご意志」をDNAに置き換えただけのことです。DNA決定論と人間の自由意志とのあいだの矛盾という哲学的難問を飛び越したまま、生物学的進化と人間心理とを強引につなげているのです。だから私はこの学問は、疑似科学だと思っています。膨大な資料を収集して得られた統計的事実は現象として尊重しますが、説明原理には納得できないのです。

 閑話休題。

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著者紹介

小浜逸郎(こはま・いつお)

批評家

1947年、横浜市生まれ。横浜国立大学工学部卒業。 2001年より連続講座「人間学アカデミー」を主宰。家族論、教育論、思想、哲学など幅広く批評活動を展開。現在、批評家。国士舘大学客員教授。著書に、『日本の七大思想家』(幻冬舎新書)、『デタラメが世界を動かしている』『13人の誤解された思想家』(ともにPHP研究所)など多数。

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