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X国のテロから首相を守るには

2017年05月08日 公開
2022年07月08日 更新

福田充(日本大学危機管理学部教授) 

インテリジェンス・サイクルを強化せよ

要人暗殺テロを防止するための対策にはさまざまなものがある。まずは、危険団体、危険人物を特定してマークするインテリジェンス活動である。警察庁、警視庁の外事や公安が実施している活動であり、通信傍受などのシギント(SIGINT)や、監視カメラによるイミント(IMINT)などの監視活動も含まれる。また、危険な外国勢力の入国を水際で阻止するための出入国管理も重要な活動である。法務省の出入国管理インテリジェンス・センターは、出入国管理の情報収集と分析をテロ対策に活かすために設置された組織である。外務省は国際テロ情報収集ユニットを結成して、外国のインテリジェンス機関と情報共有し、海外のテロ組織やテロリストの情報分析を強化している。これらの各省庁が実施しているインテリジェンス活動の成果が内閣情報調査室、および国家安全保障会議(NSC)に集約されることで安全保障やテロ対策など危機管理に活用される。こうした一連のインテリジェンス・サイクルの強化が現代の日本に求められている。

またテロリズムの防止には、ほかにも多様なアプローチが存在する。たとえば、企業の研究施設や大学の研究所で使用される化学剤や放射性物質が拡散してテロリズムに利用されないようにするための拡散防止、危険物質の管理が重要である。デュアル・ユース(dual use)と呼ばれる問題であるが、そのために化学剤やバイオ、放射性物質などに関する危険物を保持している企業や病院、大学などのネットワークを強化して管理体制を構築することが必要である。

戦後の日本国内では、オウム真理教による地下鉄サリン事件以降は、大規模なテロ事件が発生していない。むしろイラク日本人人質テロ事件、アルジェリア日本人テロ事件、シリアイスラム国日本人人質テロ事件、ダッカ襲撃テロ事件など、国外の日本人がテロ事件に巻き込まれるケースのほうが増えている状況である。グローバル化した国際テロリズムの時代にこそ、こうした国際的環境のなかで日本のテロ対策の在り方を見直し、国民のなかで議論を行なうべき時期が訪れている。

著者紹介

福田 充(ふくだ・みつる)

日本大学危機管理学部教授

1969年、兵庫県生まれ。99年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員、日本大学法学部教授などを経て、2016年4月より現職。

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