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岡村青 どうなる?豊洲移転

2017年07月03日 公開
2017年07月03日 更新

岡村 青(ジャーナリスト)

残るもいばら、移るもいばら

 一方で、「築地魚河岸」の開設には場外市場活性化の期待がもたれている。同施設は場外市場に活気と賑わいをもたらし、専門業者にも一般消費者にも支持される〝食のまち築地〟をコンセプトに整備され、晴海通りに面した小田原橋棟、波除通りに面した海幸橋棟からなり、前者は3階建て、後者は2階建てで場外市場エリアのほぼ真ん中に建つ。

 中央区が運営主体となり、事業費35億円を投入して2014年8月着工。オープンすれば、93区画に水産物、青果物、練り製品などを扱う仲卸業者が入居し、業務用から一般消費者、観光客向けの商品も取り揃えるというものだ。

 場外市場は一般客にも門戸を開いているので、外国人観光客の多さには目を見張る。欧米系と思われる観光客が、ぎごちない箸使いで握りずしに舌鼓を打つ。あるいは波除通りの卵焼き専門店は長蛇の列。客の注文に汗だくといったほほえましい光景がそちこちに。ただし、区サイドも前出の協議会も来場者数はカウントしていないという。

「そもそも、築地には観光という概念はないんです。プロの料理人や専門業者相手の商業施設であり、観光施設ではないので観光客は把握していない。ただ、都が発表した東京都内における2015年の外国人旅行者数は約1190万人。このうち中央区は銀座が50%、築地が17%となっています」(中央区商業観光課)

 前出の鹿川事務局長も、体感的としながらも、このように分析する。

「築地には一般消費者、観光客を含めて1日3万人ともいわれてますが、こうはならないまでも年間約600万人といったところですね」

 ともあれ、中国人観光客の「爆買い」も珍しくない築地場外市場。かつては、いちげんの客やバラ売りを求める一般消費者は相手とせず、ずいぶんと敷居も高かったが、和食ブームや本物志向の影響で、いまや都内屈指の観光スポットとして人気を集めている。

 そして、そのさらなる集客の中核施設として「築地魚河岸」は2016年10月15日開業で準備を進めてきた。ところが築地市場の豊洲移転が延期されたことで、こちらも11月19日に延期された。それは、同施設には現在場内で営業している仲卸業者が入居するため、実際に移転が始まるまでは、場内で営業を継続するからだ。

 このように、築地市場が存続するかぎり営業を続けたいのが場内業者の本心だ。これは、経済的メリットを度外視しても得られるものが築地市場にはあるからにほかならない。それは場外市場業者にしても同様である。

「都は、豊洲移転によって場外市場を離れ小島にし、孤立化、分断化を狙っている」など疑心暗鬼に駆られた場外業者の声も聞かれるが、移転延期は一時的な延命にすぎず、残るもいばら、移るもいばら。場外、場内どちらの業者にとってもけっして平坦ではない。

(本記事は『Voice』2016年11月号、岡村青氏の「豊洲移転・置き去りにされる場外業者の声を聴け」を一部編集したものです)

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