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江崎道朗 支那事変を英米資本主義国打倒にすり替えた尾崎秀実

2017年08月11日 公開

江崎道朗(評論家)

※本記事は、江崎道朗著『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)より一部を抜粋編集したものです。
 

尾崎ゾルゲの対日工作

1941年(昭和16年)10月18日、第三次近衛内閣が政権を投げ出し、代わって東條内閣が成立した。ゾルゲ事件で尾崎秀実が逮捕されてから三日後のことである。

尾崎らが長期化を画策していた支那事変は、すでに開戦から4年目となり泥沼の様相を呈していた。この間、「支那事変を解決するためには蔣介石政権の背後にいる英米諸国と闘わなければいけない」という奇妙な議論が大勢を占める中で、反英米の気運が高まり、1940年(昭和15年)9月27日に日独伊三国同盟は締結され、同年10月12日に大政翼賛会が結成されて既成政党は解散し、議会制民主主義は瀕死の状態に追い込まれていた。

1940年9月には、日本軍がフランス領インドシナ(=仏印。現在のベトナム、ラオス、カンボジア)の北部に進駐し、さらに翌1941年7月には、仏印南部にも進駐。これを受けてアメリカのルーズヴェルト民主党政権は、米国内の日本資産凍結や石油の対日禁輸などを打ち出し、日米関係は最悪の状況になっていた。

近衛文麿首相は、対米交渉を続けようとするが、陸軍大臣として強硬な意見を主張する東條英機と対立していた。9月6日に開かれた御前会議で「帝国国策遂行要領」が決定され、「十月上旬までに日米交渉の目途が立たなければ開戦する」とされたが、その刻限の10月上旬になっても近衛内閣は日米交渉をまとめることができなかった。

かくして近衛文麿は内閣を放り出して総辞職をし、東條英機が組閣することとなる。

この間、昭和天皇は、平和へのご意志を強く打ち出しておられた。

「帝国国策遂行要領」が決定された御前会議では、対米開戦に反対して、「四方の海みな同胞と思う世になど波風の立ち騒ぐらむ」という明治天皇の御製を紹介され、さらに東條英機に組閣の大命を降下するときには「9月6日の国策遂行要領を白紙にせよ」との白紙還元の御諚を出された。

東條は、昭和天皇のご意向を受け、対米開戦を回避するべく必死の対米交渉を開始する。

ちょうどそんな折に、ゾルゲ事件が発覚して、尾崎秀実は逮捕されることになるのだが、逮捕の直前、尾崎秀実の論文が月刊誌『改造』昭和16年11月号に掲載されている。題して、「大戦を最後まで戦い抜くために」。

この論文でも尾崎は、日本を対米開戦に追い込むべく煽りに煽っていく。

《欧州に戦争が始まった時、人びとはこれを英独の決闘であると見た。しかしながらソ連をも捲きこんだ現在ではこれを第二次世界大戦と見ることに何人も意義(ママ)を挿まないであろう》
(尾崎秀実「大戦を最後まで戦い抜くために」)

尾崎は支那事変の和平を妨害し、四十年戦争論すら唱えて長期化を図ってきた。近衛首相のブレーンとしての立場や昭和研究会を利用して、対ソ警戒の北進論を排し、英米との対立につながる南進論に国策を誘導した。いよいよ日本を完全に疲弊させる最終段階の対米戦争もここぞとばかりに煽るのである。

《私見では、これを世界史的転換期の戦と見るのである。
 英米陣営では独ソ戦が起った時、ひそかに英米旧秩序陣営の勝利に導びくものとしてほくそ笑んだのである。この種の見解はひとり英米陣営側のみならず中立的陣営ないし反対側にすら多少浸透しつつありと見られる理由がある。英米側は旧秩序の再建――修正的復元――を夢みつつある。しかしながらこれは全くいわれなきことであって、それは今次の大戦の勃発するにいたった根本の理由を見れば明らかなことである。
 旧世界が完全に行詰って、英米的世界支配方式が力を失ったところから起った世界資本主義体制の不均衡の爆発に他ならないこの戦争が、英米的旧秩序に逆戻りし得る可能性は存在しないのである。戦争はやがて軍事的段階から社会・経済的段階に移行するであろう》(同)

資本主義から共産主義に移行するのは歴史の法則であって、科学的に必然のことだ――これは共産主義者の定番のレトリックだ。

科学的な歴史の法則からして、英米の資本主義体制の側が勝つことはあり得ない。だから、日本は資本主義打倒の戦いをすべきなのだ、というわけだ。

《当局は日本国民を率いて第二次世界大戦を戦い切る。勝ち抜けるという大きな目標に沿うて動揺することなからんことである、日米外交折衝もまたかかる目的のための一経過として役立たしめた場合にのみ意味があるものといい得る》(同)

日米外交交渉は、対米開戦回避のためではなく、第二次世界大戦に日本が参戦するためでなければならない、と尾崎は言い切る。日本は英米資本主義を打倒せよ、ということだ。

《また今日日本には依然として支那問題を局部的にのみ取り扱わんとする見解が存在している。これは世界戦争の最終的解決の日まで片付き得ない性質のものであると観念すべきものであろう。
私見では、第二次世界戦争は「世界最終戦」であろうとひそかに信じている。この最終戦を戦い抜くために国民を領導することこそ今日以後の戦国政治家の任務であらねばならない》(同)

日米戦争を戦い抜くことなしには支那事変は解決しない。支那事変を解決するためにも、日本は英米資本主義国を敵とする世界戦争を戦うべきなのだ。第二次世界大戦が「世界最終戦」として英米資本主義打倒を達成するようにすることこそ、日本の政治家の任務である――実に見事なアジ演説である。

ジャーナリストとして、また、支那問題専門家としての言論でこのように世論を誘導し、なおかつ政権中枢にも入り込んで国策を歪めることが尾崎のスパイ工作活動であった。

相手国の情報を盗むことだけがスパイ活動なのではない。

相手国の政府やメディアなど様々なところに入り込み、世論を動かしたり、政府の政策に影響を与えたりして、ありとあらゆる手段で相手国に不利に、自国に有利にする積極工作がソ連の工作の特徴だ。

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