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「マイナンバーカードを全国民へ」行政サービスのデジタル化に必要な官民連携

2020年12月14日 公開
2023年01月18日 更新

安宅和人(慶應義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)

デジタル空間

菅政権はデジタル化を推進している。慶応義塾大学環境情報学部教授でヤフー株式会社CSOの安宅和人氏は、政権の動きを歓迎したうえで、マイナンバーカードを全国民に早急に普及させるべきだと説く。行政サービスをすべてデジタル空間で完結できるか。産官学のストラテジストが提言。

※本稿は『Voice』2021年1月号より一部抜粋・編集したものです。

聞き手:Voice編集部(中西史也)

 

行政サービスをすべてデジタル空間で

――9月に発足した菅政権は、各省庁にまたがるデジタル化の取り組みを一元化するために、「デジタル庁」を創設すると公約に掲げています。この動きをどうご覧になりますか。

【安宅】日本が抱える最大の課題の1つであるデジタル化を本気で進める姿勢を、心から歓迎します。改革を主導するデジタル改革担当大臣の平井卓也さんは個人的にも親交がありますが、柔軟な視点をもちつつもデジタル分野に精通したじつに有能な方です。

僕が同庁にまず期待するのは、公的なシステムや行政サービスすべてをデジタル空間で完結させ、国民がいつどこにいてもアクセスできる仕組みづくりです。

たとえば戸籍謄本や住民票を取得したいと思い立ったとき、役所に足を運ぶことなく、加えて深夜帯など何時であろうと手続きができれば便利ですよね。このたびのコロナを経験して、多くの方が行政システムの柔軟さの重要性を認識したと思います。

スマホに置き換えて考えてみてください。学校や会社帰りの夕方、ネット検索をしようと画面を触ったら「検索機能は9時から17時までしか利用できません」と表示されたらどうでしょうか。

――そうとう不便に感じますね……。いまでは考えられません。

【安宅】そうでしょう。同じことが行政サービスでは起きているのです。基幹システムは、まずミッションクリティカル(どのようなときも落ちない)な状態に保っておくのが鉄則です。

少なくとも一般国民向けの行政サービスについては、一気通貫にオンラインで完結するのが理想でしょう。電子上であれば、手書きの行政書類が読み取れないなんてこともない。もしも必要事項を打ち間違えたときには、エラー画面が出るように設定しておけばよい。

その際に必須なのがユーザーID、すなわちマイナンバーです。現在、マイナンバーカードの普及率は約20%にとどまっていますが、早急に全国民に行き渡らせる必要があります。もちろん機微な個人情報を扱いますから、情報流出を防ぐうえでもユーザーIDでログインするかたちを整備するべきです。

マイナンバーカードですべての行政書類が処理できるようになれば、役所のフロント業務の8割は削減できます。2割のみをいざというときのトラブル対応として残しておけば、行政は十分に機能するはずです。

――新型コロナ対策のための全国調査で厚生労働省とLINE株式会社が連携したように、デジタル化における官民の連携も求められるでしょう。

【安宅】行政は、(例えばLINEのような)ニューエコノミーの企業から協力を得て然るべきです。若くて優秀な民間人材を役所に動員して、実践のなかで育てていく。

そもそもデータを適切に処理し、UI(ユーザーインタフェース:利用者と製品・サービスとの接点。サイトの見た目や使いやすさ)をデザインできる人材は民間のほうが多い。優れたIT企業のなかから、時限的にエンジニアの5%を行政に駆り出すくらいの試みをしてもよいと思いますよ。

CTO(最高技術責任者)を中枢に据え、あとはプロジェクトに応じてエンジニアを祭りに参加させる感覚で動員していけば、日本のデジタル化はかなり加速するのではないでしょうか。

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