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東京電力料金値上げがもたらす2つの懸念



2012年07月31日 公開

佐々木 陽一(政策シンクタンク PHP総研 地域経営研究センター 主任研究員)

 今月25日、政府は東京電力の家庭向け電気料金の値上げ幅を、東電が申請した10.28%から8.46%に縮めた上で認可した。東電は、この値上げで新たに5930億円を調達できるようになった。標準世帯(契約アンペアが30A、電気使用料が290kwh)の電気代は9月以降、現在と比べて月額約500円上がる。電気料金の原価算定には、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働が織り込まれているが、肝心のわが国のエネルギー政策の方向性は不透明なままだ。今後、状況次第では、値上げの前提となった収益見通しが狂い、想定外の事態が起こるかもしれない。

 今回の値上げ査定では、福島第1、2原発の6基の減価償却費の扱いが焦点となった。原価にこの費用を算入しなければ東電の財務状況が悪化し、損害賠償・廃炉措置・電力の安定供給の同時達成が困難になる。さりとて、電気料金の上げ幅を圧縮し過ぎると、公的資金(税金)の追加投入になってはね返ってくるというジレンマを抱えていた。結果、当初申請時から値上げ幅は2%弱圧縮され、東電の料金収入は年額840億円も減る。東電は減少分を人件費など電気料金以外のコスト削減で賄わなければならない。今回、全社員の平均年収の約24%削減や健康保険料の会社負担割合を60%から50%に縮めるなどのリストラに取り組む。だが、人件費だけに目を奪われると、これ以外の重要な問題点を見過ごしてしまう。

 その1つは、事業報酬費である。電気料金原価は、「発電費用(人件費、減価償却費、修繕費、燃料費・購入電力料など)+事業報酬費」という算定式(総括原価方式)から成る。発電費用については、各科目のどこまでが合理的に圧縮可能な水準なのかを結論づけるのは難しい。これに対して、事業報酬費については、原価の上に一定の報酬率を上乗せしたもので、それ自体、資本額に比例して自動的に多くなる仕組みになっている。東電には、昨年11月から現在までに、1兆2368億円もの公的資金が注入されている。注入された公的資金は「資本金」に組み込まれ、東電の自己資本が増強されてきた。つまり、事業報酬費を電気料金の値上げ幅に転嫁することは、国民から費用を二重取りすることになる。

 もう1つは、エネルギー政策全体との整合性である。東電以外の他電力会社の収益構造は原子力発電に大きく依存しており、原発を再稼働できなければ、各電力会社は赤字経営を余儀なくされる。また、現在、原発停止に代わる火力発電の燃料費高騰によっても、経営が大きく圧迫されている。電力会社のこうした財務内容は、エネルギー源の比率を変えるといった政策転換がない限り、大きく変化することは期待できない。つまり、現在の収益構造では、原発再稼働か電気料金の値上げのどちらかを実現しなければ、電力会社の経営は成立しない。逆に、どちらも実現しなければ、政府による公的資金注入を何度も繰り返す事態に陥りかねない。今後、国民は、電気料金の原価の適正性だけでなく、その根拠が便乗値上げの口実に使われぬよう、継続的に厳しくチェックしていく必要がある。

 

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