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[攻める働き方]自分の根源的な欲求を意識せよ

2012年10月31日 公開

中山讓治(第一三共〔株〕代表取締役社長兼CEO)

《『THE21』2012年11月号より》
<取材・構成:杉山直隆/写真撮影:永井浩>

悩んだら「自分がどうしたいか」を考えてみる

 

最悪の状況を想定してみる

 国内第3位の医薬品メーカーである第一三共〔株〕。2年前から同社を率いる社長の中山讓治氏は、バラエティに富んだキャリアの持ち主だ。サントリーの酒類営業や財務を経て、医薬品子会社の社長に就任。その会社が第一製薬に買収されると、第一製薬の取締役に。さらに、三共と合併した後、現職に昇格した。異なる環境でもまれることで、強い心を手にしたのではないだろうか? そんな問いを投げかけると、意外な答えが返ってきた。

 「さまざまな経験を積んではきましたが、若いころと比べて、自分の心が強くなったかというと、そうは思いません。まだまだ弱いままだと思っています。第一三共の社長になってからは、それを改めて実感しましたね」

 医薬品メーカーの生命線は新薬を生み出すことだが、その開発には数百億円もの資金がかかる。うまくいけばリターンは大きいが、リスクも大きい。失敗すれば、会社が傾くことも十分にありえる。

 「医薬品の難しいところは、公共性の高さ。製薬会社は、リターンばかり考えずに、利益の出にくい分野の医薬品開発にも乗り出す社会的使命があります。その代表的な例が、子供用のワクチン。採算がとりにくいのですが、子供たちを守るためには踏み出さなければいけない分野だと思うのです。ただ、それを言い訳に、赤字を出すことは許されない。従業員に十分な給料を払い、株主が期待する収益を上げることも必要です。ですから、何に投資するかを決断するのは非常に難しいですね。

 ただ、決断するのを怖がっていては、いつまで経っても前に進めません。そこで、強がることなく、自分の弱さを認めたうえで、心を乱さない準備をするようにしています」

 その「心を乱さない準備」とは、「最悪の状況をシミュレーションすること」だ。

「そもそも決断に恐怖を感じるのは、どれほどの悪いことがふりかかるのか、わかっていないから。そこで、この決断をしたときに起こり得る、最悪な状況とは何か。2番目、3番目に悪い事態とは何か。これらを考えて、書き出して、つらつらと眺めているんですね。

 このように現実を突きつけてみると、暗い気持ちになりそうですが、実際はその逆。だんだんと『まあ、せいぜいこの程度か』『命までとられることはないだろう』と勇気が出てきて、決断できるのです。

 ときには、厳しい結果が出る可能性が高い決断を下さなければならないこともありますが、どんな失敗が起こるか覚悟しておけば、のちに受けるショックも少なくなります。

 私はこのシミュレーションを毎朝、出社前にするようにしています。以前は前日の晩にしていたのですが、夜にすると寝られなくなってしまうのですよ。

 シミュレーションは、第一三共の社長になるよりずっと前、サントリーにいたころからしています。最初は予測の精度が低かったのですが、繰り返すうちに、精度が上がってきた。いまでは想定外の事態が起こることは、ほとんどなくなりました」

 中山氏がシミュレーションをするのは、難しい決断をするときに限らない。プレゼンの前や、上司や部下と面談をする前にも行なってきたという。

 「『こんなことを話そう』『私がこういったら、相手はこんな答えを返してくるのでは』といったことを事前に考えて、メモしておくのです。

 本番では、メモのとおりに話が進むとは限りませんが、それでかまいません。『相手の出方はだいたい想定できている』と思えると、非常にリラックスして、プレゼンや対話に臨めるんですね。

 私は、仕事の場で話すときには、たとえ五分程度の会話だとしても、つねに事前準備を欠かさないくらいの緊張感をもつべきだと思っています。それは、冷静に話せるようにするためでもありますが、相手の貴重な時間をムダにしないためでもあります。相手の時間を奪うことに敏感にならなければ、周囲の評価は得られないでしょう。ベテランになればなるほど、油断して準備をしなくなりがちなので、注意が必要だと思います」

 

悩んだときには自分の志に立ち返る

 誰しも仕事をしていれば、前向きな気持ちで取り組みにくい仕事があるものだ。中山氏も、サントリーの医薬品子会社の社長時代に、販売した医薬品の自主回収、という苦い体験をしている。

 「市場に出回っている薬の一部が、本来の品質を下回っていることが明らかになったのです。具体的には、高い温度の場所に放置すると薬の量が減ってしまうので、『温度の高い場所には置かないでください』と説明書には書かれてあったのですが、現実にはそう管理されていなかった。そうである以上、自主回収するしかないと決意したのです。ただ、この対応によって会社の機能が一時ストップしてしまった。対応に追われる社員の士気も下がりました」

 もっとも、中山氏は、この回収業務に対しても、前向きな気持ちをもち続けられたという。その理由は、「自分は何のためにこの仕事をしているのか」という志をつねに意識したからだ。

 「われわれ医薬品メーカーの人間は、『患者さんの役に立つため』に働いています。その原点に立ち返れば、本来の効き目が発揮できない可能性のある薬を回収するというネガティブな仕事も、『患者さんにマイナスを与えないために必要な仕事』ととらえられる。そう考えると、『少しでも早く回収しよう』『この際、ほかの薬も大丈夫かどうかチェックしよう』とよりよい成果をあげたいというモチベーションがわいてきました」

 この例に限らず、中山氏は、何か悩んだり、迷ったりしたときには、「志に立ち返ること」を心がけている。

 「そうすると、表面的な事象だけをみていると気づかないことに気づくことができます。

 たとえば、自分の意に沿わない異動をした時。MR(営業)から支援業務が中心の間接部門に異動すると、『MRのままでいたかった』などと心が折れてしまう人がいますが、『そもそもなぜこの仕事をしているか』を考えれば、捉え方が変わってきます。その志が、『薬で人を助けたい』ということなら、どこにいてもその目的は達成できる。MRの活動をバックアップしてくれる存在があるからこそ、MRも薬を普及させることができるわけですから。こういう見方をすれば、『違う角度から患者さんを支えるという新たなチャレンジなのではないか』とも捉えられるわけです」

 中山氏が志に立ち返ることの大切さに気づいたきっかけのひとつは、53歳のときに、サントリーファーマが第一製薬に買収されたことで、第一製薬に移籍したことだ。

 「当初、私は、サントリーに残るつもりでした。第一側がほしがっていた研究員や技術者ではなく、管理部門の人間だったからです。ただ、ある人に『あなたもいかなければ、移籍する研究員たちは納得しない』といわれて、はっと気がついたのです。管理部門だから残るというのは、20年以上慣れ親しんだ会社から新天地にいくのを避けたいという言い訳にすぎない、と。そうした気づきと責任感が移籍を決意した理由の1つなのですが、同時に思ったのが、『患者さんの役に立つ』という志でした。その志は、どの医薬品メーカーにいこうが達成できるんですよね。そう考えると、新天地に移籍することに抵抗がなくなりました」

 

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