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子どもの「感情」を育てよう

2012年11月16日 公開

渡辺弥生(法政大学文学部教授)

渡辺弥生 教育 情操

子どもへの教育は「知識」や「思考」ばかりに偏ってはならないものです。

感情の豊かな子どもに育てる「感情の教育」について、法政大学文学部教授の渡辺弥生氏に伺いました。

※本稿は、渡辺弥生 著『人前での叱り方・言い聞かせ方』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

そもそも人間の「感情」とは?

人間にはいろいろな感情があり、「感情の動物」といわれているくらいです。

喜んだり、怒ったり、悲しんだりと、感情はさまざまに変化し、このうえない幸せを感じている矢先に、奈落の底に突き落とされるような絶望を味わうこともあります。

感情とは実に繊細で複雑、そして一瞬で目まぐるしく変化するものでもあります。

子育てをしているお母さんならおわかりでしょう。生まれたばかりの赤ちゃんは泣いてばかりいますね。

「泣く」のは、悲しいからではなく、不快だからです。おなかがすいている、おむつが濡れている、というさまざまな不快感から泣いています。

人間の感情は、0歳の快・不快から始まり、2歳までには怒り、恐れ、愛情、嫉妬を覚えるなどと、情緒が細かく分かれていきます。そして2歳くらいになると、感情を言葉で表すようになります。

他人の表情からの感情の理解もできるようになり、幼児期の終わりごろには、感情は複雑なものだという感覚ももてるようになるようです。「お母さんのこと好き?」「うん。でも、怒ると怖いよ」といった表現ができるようになります。

さらには、感情を調整するという力が発達してきます。お絵描きの時間に熱中できたり、またやめるように言うとやめられたりといったコントロールができるようになります。

このような「感情」は、私たちの「考えること(思考)」「行動」に大きな影響を与えています。まず、感情と行動との関係について説明しましょう。たとえば、悲しいから泣く、怒ってたたく、などと感情によって行動が大きく変わってきますね。

反対に、「行動」が「感情」に影響を与える場合もあります。スポーツをすると楽しくなる、ゲームで遊んでいて負けたら悔しい、などです。ときに考え方を変えることによって、感情が変わることがよくあります。

たとえば、お気に入りのマグカップを割ってショックを受けても、「まあ、いいか。またマグカップを買う楽しみが増えた」とポジティブにとらえられれば、くよくよしていたことが嘘のように気分が晴れるといったことです。

このように、「感情」と「思考」「行動」は、切っても切れない関係にあります。

 

子どもに「感情」を教える必要がある

これまで教育に関する研究では、人間の「知識」「思考」といった、考えたり学んだりする力がどう発達していくかということが注目されてきました。しかし近年は、特にアメリカを中心に 「感情の発達」に注目していこうという動きが高まっています。

日本では、これまで「感情の教育」というものは強く意識されてきませんでした。

「もう、泣かないの」「あなた、笑いすぎよ!」などと、お母さんが子どもに言ったりしますが、「感情」をきちんと教えているわけではありません。

それでも昔は、わざわざ教えなくても、子どもの感情を育てることが自然とできていました。親やきょうだい、地域の人たちなどたくさんの人々のなかで、泣いたり笑ったり人々の表情や言動を目にすることにより、感情表現が豊かになって、感情にかかわる知識を学んでいったのです。

しかし近年は、親自身の感情表現も豊かでなくなり、気持ちを大事にして伝えるというかかわりが少なくなってきているように思います。そうすると、子どもは誰からも「感情」に関して教わらないまま成長していくことになってしまいます。

それでは、感情が育まれない場合、いったいどうなってしまうのでしょうか?

感情は年齢とともに発達していきます。

たとえば、うれしい顔・怒っている顔・悲しい顔・驚いている顔など、基本的な表情の絵を見せたとき、何歳ごろからすべて正解することができるでしょう。

4歳では間違う子どももいますが、おおよそ5歳くらいになると「これは怒っている顔」などとわかるようになります。しかし、問題行動が多い子どものなかには、表情の読み取りがうまくいかない子どもがいます。

そうすると、日常のなかで相手の表情を見ていなかったり、読み取れないということが出てきます。そのため、友だちをたたいたときにその子の顔を見て「悲しい顔」ということがわからず、いつまでもたたいてしまうようになります。

このように、感情が育たなければ、自分の感情をきちんと表すこともできません。悲しいときに「悲しい顔」ができない、うれしいときに「うれしい顔」ができない。そうすると、相手から自分のことを理解してもらえなくなってしまいます。

また、子どもは成長するなかで、感情の幅が広がっていきます。

たとえば小学校低学年の頃は、
「明日は運動会だからうれしい」
「雨が降ったら悲しい」

と単純に考えますが、高学年になると、
「運動会だからうれしいけど、雨が降りそうだからちょっと不安」

と、ポジティブな気持ちとネガティブな気持ちが入りまじるときもあるということを理解できるようになります。

こうして感情の幅が広がっていくとともに言葉もどんどん覚えて、子どものボキャブラリーは増えていきます。

そうすると自分の気持ちを言葉で表せるようになります。自分の気持ちを言葉にすることができずにトラブルを起こしたりトラブルに巻き込まれてしまったりすることもあります。

つまり、気持ちをうまく伝えることができれば問題を予防したり解決できることが多くなります。

大人でも、自分の気持ちをうまく言葉にできない人がいます。

何かもやもやすることがあったとき、皆さんは自分の気持ちを言葉にして誰かに聞いてもらっていますか?

たとえば、「この間、駅で知らない人の足を思いっきり踏んじゃったの。あわてて謝ったんだけど、すごくにらまれて怖かったわ。なんだか落ち込んじゃって、まだショックをひきずってるの」

などと自分の気持ちを言葉にして人に話せたら、
「そんなこと気にしなくていいわよ。謝ってるのににらむなんて、その人が大人気ないと思うわ」

と相手が返してくれるだけで、救われた気持ちになるでしょう。もやもやした気分やイライラした気持ちは、案外人に話すだけで、すっきりと解決することが多いものです。

しかし自分の気持ちをうまく言葉に表せないと、ネガティブな気持ちを自分のなかに抱え込んだまま、悩み続けることになってしまいます。

子どもが上手に人とかかわっていけるように、成長してからも社会で健全に生きていけるように、生活のなかで「感情」を育んでいく必要があると思うのです。

 

感情の豊かな子どもを育てる4つの柱

子どもの感情を育てるために、次の4つを柱にしていきます。

順番がある訳ではありません。互いに影響し合って育まれていきます。

(1)自分の気持ちに気づく
(2)他の人の気持ちに気づく
(3)自分の気持ちを調整する
(4)他の人とうまくかかわる

それぞれについて、幼児から小学校低学年の子どもを育てるポイントを紹介していきましょう。

(1)自分の気持ちに気づく:たとえば、子どもが笑って飛び跳ねているとき、「すごいジャンプ。うれしかったんだねぇ」と言葉かけしてやれば、子どもは自分の喜びが飛び跳ねる行動につながっていることに気づくようになります。

・気持ちをオープンにして、うれしい
・楽しいなど基本の感情を理解する
・感情には広がり(幅)があることを理解して、自分の感情について話す力を育てる(プンプン、カンカンなど、同じ怒りでも強さが違うことがわかる)
・自分の感情がどのようなことで引き起こされるのか、引き金について理解する
・人間として感情があることのたいせつさを理解する

(2)他の人の気持ちに気づく:自分と同じような気持ちをもっていることや、ときに違う気持ちになることがわかるようになります。

・他の人の基本的な感情を知る
・他の人の感情の手がかりに気づく(「○○君が顔をしかめるのは怒っているとき」と気づくなど)
・他の人の感情に寄り添ったり離れたりすることを理解する(友だちに対してすごいと思ったり、どうもよくわからなくなったり、という距離感に気づく)
・他の人の気持ちに共感する

(3)自分の気持ちを調整する:自分の気持ちと他人の気持ちが違うときに生じる葛藤や怒りを調節したり、うれしいとき・楽しいときの興奮を調整できるようになります。

・気持ちを調整することのむずかしさを体験する
・感情を平常に保とうとする
・怒り、恐れ、心配、罪悪感、欲求不満といった感情を適切な方法で対処する

(4)他の人とうまくかかわる:実際にどのようにふるまえばよいか、どう言葉をえらべばよいか、さらにはどう行動すればよいかについて考えられるようになります。

・「順番こ」など、人と共有する力を発達させる
・「友だちとはどんな存在か?」という友情の概念を理解する
・集団で活動するために必要なスキルをもつ
・他の人とうまくやりとりするためのスキルを伸ばす

(1)~(4)は1つずつ育まれていくというより、互いに影響し合って育っていくものと考えられています。

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