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“スーツ販売のカリスマ”が教える雑談の極意



2013年06月03日 公開

町田豊隆(AOKI常務執行役員/横浜港北総本店総店長)

『THE21』2013年6月号より》
<取材構成:長谷川敦/写真鶴田孝介>

「その人ならではの情報」で話を膨らませる

 

雑談の主導権はお客様の側にある

 全国に店舗を展開する紳士服のAOKIには、スーツ販売のカリスマがいる。横浜港北総本店総店長の町田豊隆氏は、年間約 8000着、金額にしてなんと2億円分ものスーツを、約 30年にわたって売り続けているという。お得意様の数は1500人。「スーツを買うなら町田さんから」と、遠方から来店する人も少なくない。いったい、町田氏はどんな雑談力で心をつかんでいるのだろうか。

 「接客やその際の雑談で大切なことは、まず『お客様を好きになること』だと思います。店員がお客様に対して『ちょっと苦手なタイプの方だな』という先入観を抱いてしまったとしたら、雑談が弾むわけがありませんよね。

 AOKIでは店舗の朝礼時に、みんなで声を揃えて『いらっしゃいませ。いい人ですね。ご来店ありがとうございます』というあいさつの練習をします。もちろん、実際の接客では、お客様に面と向かって『いい人ですね』とは口にしません(笑)。でも、心の中でそういう思いを持って接することができれば、接客が楽しくなり、雑談もスムーズにいきます。ですから、まずは『お客様はいい方だ』と思うことが大事。そう信じながら接しているうちに、ほんとうにいい方であることに気がつくのです。

 もう1つ、私がお客様と雑談をするときに意識しているのが、『雑談の主導権はお客様が握っている』ということです。買い物の主役はあくまでもお客様。お客様によっては、店員と雑談を楽しみたい方もいらっしゃれば、必要以上の会話は交わしたくないという方もいらっしゃいます。ですから、雑談の中身だけでなく、量についてもお客様に合わせて変えていく必要があるのです。

 そういう意味では、雑談は心理戦です。表情やしぐさから『話しかけてこないで』というサインを出しているお客様は、こちらに対して緊張感や警戒感を抱いているものです。そういう場合は、無理に話しかけないで、少し距離を置いて、温かく包み込むような表情や目線でお客様を見守るようにしています。そうすれば、お客様の緊張や警戒も次第に緩んできて、話しかけやすい雰囲気になってくるものです」

 

距離を縮めたあとは良き聞き役に徹する

 初対面の相手に緊張するのは、来店客だけでなく接客する側も同じはず。町田氏は、どんな話題でお客様との距離を縮めているのだろうか。

 「ご来店への感謝を伝えつつ、『今日はお休みですか?』とか、『すっかり暑くなってきましたね』というように、警戒感を持たれず、どなたでも簡単に答えられる話題から入ることが多いですね。また当店の場合、家族連れでいらっしゃる方も多いので、「お子さん、かわいいですね。おいくつですか?」といったように、ご家族を話題にすることもよくあります。

 こういう場面でのポイントは、質問するばかりではなくて、自分の話も少しだけ交えることです。お客様のお子様が幼稚園の年中組であることがわかれば、「うちは3人子供がいるんですが、やっぱり幼稚園の年中ぐらいのときが一番かわいかったですね」とお話ししたりしますね。私自身が壁を作らずに身の上話をすることで、お客様も「そうなんですか。でもうちはやんちゃで大変なんですよ」と答えやすくなり、共通の話題で距離を縮めることができます。そうすると、ご職業や家族構成、趣味などのパーソナルな情報についても、お客様のほうから話してくださるようになります。

 中には、一度打ち解けると、話すのが楽しくてしかたがないという様子の方もいらっしゃいます。接客の時間の9割は雑談で、最後にほんのちょっとだけスーツの話をして、商品を購入してお帰りになるお客様も多いですね。お客様が心を開くまでは、ある程度こちらから話題を振る必要がありますが、お客様が話し始めたら、店員は良き聞き役に徹することが大切だと思います。

 良き聞き役であるためには、社会の動きに敏感であることが必要です。先日も、とあるお得意様が来店なさってTPPの話になったのですが、もし私がTPPについて何の知識もなければ、お客様は白けてしまいますよね。ですから、日頃からテレビや新聞、雑誌はよくチェックするようにしています。とくに、紳士服をお買い求めのお客様はビジネスマンが中心ですから、経済の情報を仕入れておくことは欠かせないですね」

 

覚えてもらうことが人は何より嬉しい

 初めてのお客様と常連のお客様とでは、雑談の中身は変わってくるものだろう。町田氏は、お得意客相手にはどんな雑談をしているのだろうか。

 「常連のお客様にとっていちばん嬉しいのは、店員が自分のことをちゃんと覚えてくれていることだと思います。私の場合、土日や祝日にはだいたい4、5人程度のお客様から予約が入るのですが、予約のお客様については事前に顧客データを読み直して、情報をチェックしてからお迎えするようにしています。そして、『そういえば娘さん、今年就職なさったんですよね』といったふうに話題を振ると、お客様は『よく覚えてくれているね』と、すごく喜んでくださいますね。

 もちろん、予約なしで来店される方もたくさんいらっしゃいます。でも、久しぶりのお客様でも、顔を見れば意外に思い出すものです。コツといえるかどうかわかりませんが、私はお客様の顔と名前を「この方は田村正和似の○○さん」というように、有名人に結びつけて覚えるようにしています。

 雑談は、ただ話をしただけではとりとめのないものですが、その内容を覚えたり記録したりすることで、その価値は格段に高まってきます。『前回いらしたときは、○○についてお話しでしたよね』と言うだけでも、一歩深い内容の雑談ができるようになります。そうすることで、雑談の質が高まるとともに、お客様との信頼関係も深まっていくのだと思います」

 

町​田豊隆
(まちだ・とよたか)

〔株〕AOKI常務執行役員/横浜港北総本店総店長

1950年、長野県生まれ。大東文化大学卒業後、アオキ(現・〔株〕AOKI)に入社。各地で店長やエリアマネージャーを務め、一貫して販売の現場に立っている。年間約2億円、約 8,000着のスーツを売り、30年以上同社のトップセールスマンとして活躍。顧客からの信頼は絶大で、親子二代、孫まで入れた三代の顧客も数多いという。


<掲載誌紹介>

THE2​1 2013年6月号

[今月号の読みどころ]
セールス・トークはほとんどせず、雑談だけで契約を獲得してしまう営業マンがいます。また、何気ない会話で相手の人柄や仕事の適性を判断し、適材適所の人材活用をする経営トップもいます。このように、ビジネスシーンにおいても、「雑談」はとても重要な意味を持っています。しかし、その重要性に気づいている人は意外と少ないといえます。今月号の特集では、雑談の重要性を改めて考察するとともに、各界で活躍する方々の独自の雑談テクニックをうかがいました。一読すれば一生役立つビジネススキルになること間違いなしです。

THE21

 

BN



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