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新海誠 「日本の風景」で世界を驚かせたい



2013年07月10日 公開

『Voice』2013年8月号より

 新海誠さんというアニメーション映画監督の個性は、代表作『秒速5センチメートル』(2007年)をはじめ、これまで手がけてきた作品のすべてで原作、脚本、編集、撮影、監督を兼ねることで、個人的な世界観を私的に開花させるところにあるのではないだろうか。そもそも、実質的な監督としてのデビュー作 『ほしのこえ』 (2002年)では、ゲーム会社の社員時代から培ってきたCGなどの技術を活かして、作画や美術をたった一人でこなし、それまでの個人の手によるアニメーションの概念を壊すほどのクオリティーの高さ、とくに背景の斬新さで才能を見せつけてきた。その新海さんがいま、彼らしい物語と風景を詰め込んだ新作 『言の葉の庭』 で大きな話題を呼んでいる。そのあまりにも個人的な作風に込める思いと、創作を支えるものを訊いた。

<取材・構成:木村俊介(ノンフィクション・ライター)/写真:Shu Tokonami>


『言の葉の庭』(配給/東宝映像事業部)
(c)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films

 

実在の場所をアニメーションで見せる意味

 木村 新作 『言の葉の庭』 はいままでの新海さんの映画のなかでもっとも素晴らしいものだと思います。

 新海 ありがとうございます。本作は香港と台湾では日本と同時期に上映され、その後も海外で発表する予定が入っています。映画館なのか、ブルーレイディスクなのか、アイチューンズ・ストアなどでのデータ配信なのか、もしくは違法なコピーなのかはわからないまでも(笑)、海外でも観られるであろうことを前提として今回の作品をつくりました。

 ただ、個人的には「海外でもビジネスとして成立するようにつくる」ことまではわからないので、2008年から1年ちょっとロンドンにいたときに仲良くなったいろんな国の友人、過去作によってつながりができた各国の映画館の人やディストリビューター(配給や流通を担う人)といった、具体的に顔が浮かぶ人たちに楽しんでもらいたいと考えました。

 また素朴に、「いま、ぼくが住んでいる東京はけっこう綺麗な場所でしょう?」と郷土自慢をしたい気持ちも込めたんです。

 木村 とくに雨が降る新宿駅付近、新宿の日本庭園といった風景の描写は、世界的に見てもアニメーション表現としての独創性の高さ、美しさを示すものではないでしょうか。本作では風景にどのような意味を込めたのでしょうか。

 新海  「普段、自分たちが見ている風景を綺麗に見せたい」ということですね。実在の場所を舞台にするからには、海外に対してはもちろん、実際にその場所を知っている国内の人にも、アニメーションとして見せる意味を示さなければなりません。「実写でよかったのに」と思われないためには何をすればいいのか、監督であるぼくだけでなく、ほかのスタッフも考えざるをえませんでした。背景の絵は、ぼくも含めた個々の背景美術のスタッフが「自分は風景をこう捉えている」「こんなふうに風景を見れば綺麗なのでは」という主観を見せるプレゼンテーションにもなる。画面の1カットずつにテーマを求めることは、今作に限らずいつもやっているんです。時にはそれはキャラクターであったり、声や音楽になることもあるのですが、今回は現実を舞台にしただけに、「雨の新宿」といった一カットごとのテーマを重視しました。

 その際に求めるのは、たとえば「どう描いたら水たまりの描き方にハッとしてもらえるか」、つまり「物語の流れを阻害しない程度に、1カットずつ映像として驚いてもらうこと」なんです。こんな色合い、アングルがあるんだな、と。何に驚いてもらうのかを決めたところから絵作りを始めました。

 具体的にいえば、まず写真なのか絵なのか、ぱっと見ただけではわからない密度の背景を提示する。しかし、写真と思うほどの情報量があるにもかかわらず、実際には手で描いている背景なので情報がすごく整理され、クリアに見える。現実であれば池の水面には葉や枝などいろいろなものがゴミとして浮かんでおり、映り込む色も木の葉の緑だけでなく、雨空のグレーなども入っていますよね。しかし、水面はクリアに、色は真緑にと捉え直すので、密度や情報量が多い割に抽象化された風景となり、「この風景は、たしかに知っているはずのものだけど、こうして提示されると新鮮なものに見える」となるんです。

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著者紹介

新海 誠(しんかい・まこと)

アニメーション監督

1973年、長野県生まれ。中央大学文学部国文学専攻卒。5年間のゲーム開発会社勤務を経て、フリーランスのアニメーション監督に。2007年、『秒速5センチメートル』でアジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」を受賞。その他の監督作品に、『雲のむこう、約束の場所』(2004年)、『星を追う子ども』(2011年)などがある。

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