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地方経済を再生させる「企業とまちのたたみ方」〔1〕

2014年11月06日 公開

冨山和彦(経営共創基盤〈IGPI〉代表取締役CEO)

《社会変革プラットホーム「変える力」より》

 2014年秋の臨時国会では、「地方創生」が大きなテーマとなった。安倍総理は、内閣改造で石破茂氏を地方創生担当大臣に任命するとともに、「まち・ひと・しごと創生本部」を設置した。政府は、地方創生の理念を定めた基本法案を臨時国会早々に提出し、速やかに可決。省庁のタテ割りを排した地域活性化に全力を挙げる方針と報じられている。

 地域活性化はこれまでの政権も力を入れており、すでに内閣官房には、「都市再生本部」「構造改革特別区域推進本部」「地域再生本部」「中心市街地活性化本部」「総合特別区域推進本部」の5つの本部が置かれている。今回、地方創生を進めるといっても、従来型の施策の焼き直しに止まるのではないかとの見方も根強い。

 政府に地方創生に対する危機感を募らせるきっかけとなったのは、増田元総務大臣を中心とする日本創成会議がまとめた、「大都市への人口移動が収束しなければ、2040年には全国1800市区町村のうち約半数の896が消滅可能性都市になる」とするレポートであった。これを受けて、骨太の方針も「50年後にも1億人程度の安定的な人口構造を維持することを目指す」と、初めて人口減少への対応を盛り込んだ。

 本格的な人口減少という局面で、地域活性化という古くて新しい課題に、どうすれば起死回生策を見出すことができるのか。『なぜローカル経済から日本は甦るのか』の著者である冨山和彦氏とともにそのヒントを探った。

<聞き手:荒田英知(PHP総研主席研究員)>

 

人手余りから人手不足に転じた地方経済

荒田 冨山さんのご著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』は、グローバル(G)とローカル(L)という2つの世界を対比し、わが国のGDPの7割を占めるLの方の経済成長戦略を解き明かされたことが実にタイムリーでした。夏には、菅官房長官の愛読書であると新聞記事に取り上げられたり、地方創生本部事務局の参考図書リストに載っているとも伝えられたりしています。先日はある研究会のゲストにお迎えした公明党の石井啓一政調会長が、カバンから同書を取り出し、「これを読んで、なぜローカル・アベノミクスが必要か、一目瞭然にわかった」と仰っていました。

冨山 私は、本来はLでなくてGの世界の人間なんですけどね(笑)。当社(経営共創基盤)の子会社に「みちのりホールディングス」という地方公共交通の運営会社があります。岩手県北バス、福島交通、会津バス、茨城交通、関東自動車の5グループを抱えて、合わせて約3500人の従業員と2000台近いバスとタクシーを保有しています。これらの会社の経営に関わることを通じて、地方経済に問題意識を持つようになりました。

荒田 地方創生という古くて新しい課題に対して、これまでと何が違うのか、どうあるべきとお考えでしょうか。

冨山 地方経済をめぐる環境面では、現在、人手不足という極めて大きな変化が起こっています。これまでは人手余りの中での地域活性化だったのです。人手が余って仕事がないからどうするかという議論でした。結果的には、それらの政策はワークしませんでした。それが今度は人手不足です。景気低迷の中で、都市よりも地方で先に人手不足が起こっているという環境変化があります。人手不足の中で地方創生をどうするかが問われます。政策展開するときの自由度、選択肢の広がりは、人手が不足している時の方が大きいと思います。

荒田 Lの世界で成長の鍵を握るのは、生産性の低い企業の「緩やかな退出」であるという指摘は全く同感です。けれども、これを現実に進めようとすると簡単にはいきません。従来と何を変えることが効果的なのでしょうか。

冨山 これまでは人手が余っていましたから、それを吸収するためには生産性の低い企業や産業が存続することが、必ずしも悪いことではなかったのです。ローカル経済圏の主役は労働集約的な非製造業、いわゆるサービス業ですから、それらを低い労働生産性のまま、金融措置や助成金で延命させるということをやってきたのです。人手不足のいま、これを続ける理由はなくなりました。生産性の低い会社は退出するか、生産性の高い会社や業種を応援して、そこに雇用を引き取ってもらう、ということが政策の基本になります。

 

産業政策と社会政策は別ものである

荒田 これまで地方自治体は、地域の産業政策と称して、地場企業に対してさまざまな補助金や助成金を出してきました。しかし、それは産業振興政策というよりも、延命するための社会福祉政策になっているのが実態だと思います。

冨山 バブル崩壊以降は、人手余りは続いていましたから、それを失業という形で顕在化させるよりも、企業の側に社会政策を代替してもらったということですね。その限りでは延命政策は功を奏したといえなくもありません。しかし、いまや人手不足の局面ですから、そういう政策を引っ張る必要は社会政策的にもなくなったのです。

荒田 「緩やかな退出」という方向性は地域で共有できると思うのですが、それが予定調和的に進むとは限りません。ご著書では地域金融機関の「目利き」としての役割を重視していますが、はたして金融再編が続いた中で地場の金融機関にそうした人材が育っているかが気になります。

冨山 結局は人材の問題に帰着します。解決策は2つしかなくて、もし大都市と地方で人材の不均衡があるなら、それをどう還流させるかです。ちょうど、当社(経営共創基盤)のスタッフがみちのりホールディングス傘下の東北のバス会社に張り付くイメージです。もう1つは、どこにも人材がいないなら、時間をかけて育てるしかないということです。

荒田 地域のコーディネート役としては、地方自治体への期待もあるのですが、多くの場合は目利き役までは期待できそうにありません。しかし、たとえば農業の退出戦略を考えようとすると、農地の土地利用の問題とか、自治体の積極的な関与というかデザイン力が求められる場面も想定されます。

冨山 ここは難しい問題です。役人が「こういう風にすれば、うまくいく」というように商売の中身に口を出すと必ず失敗します。それは無理なんです。それができるなら自分でやればいい。そうすると自治体ができることは何か、という話になります。地方自治体にしても中央政府にしても政府部門の役割は、能力があってやる気のある人たちが起業しようとした時に「邪魔をしない」ことにつきます。邪魔の仕方には2つあって、1つは余計な規制をいっぱいつくること。2つめは能力もやる気もない人でも貰える補助金をつくることです。弱者救済型のお金の出し方はダメです。この2つをずっとやってきたのです。大事なことは、規制にしても政策金融による支援にしても、よりイノベイティブで高収益な会社、ブラックな会社よりもホワイトな会社の方が得をするような監督や支援の仕方をすることでしょう。

荒田 そういう見極めは、中央政府が一律にやるよりも、本来なら地域に密着した地方自治体の方が得意でないといけないですよね。

冨山 それはそうです。近くでみた方が、規制やお金の使い方は判断がしやすいでしょう。だからこうした政策転換の効果をきめ細かく測定して、PDCAを粘り強く回す役割は重要です。けれども、近くにいると弊害もあって、近くの困った人たちがすごい勢いで来るので、しがらみでたいへんなことになります(笑)。その意味では、近いのと遠いのと五分五分でしょうか。しがらみにお付き合いしなくて良い防衛線を国が設定して、自治体が「国のせいでできません」といえるようにしてあげることも必要かもしれません。

荒田 だれが悪者になるか、という話ですね。

冨山 ある意味、不利益の再分配ですからね。従来は強い人も弱い人も救われるやり方をやってきました。結局、弱い人が足を引っ張って全体が沈んでいくという構図が地方の産業にはあったわけです。これを「強い人は天まで上がれ、弱い人は穏やかにエグジットを」ということを進めていくわけですから、前者は応援するけど後者はできないというルールは、現場から離れた霞が関で決めた方がうまくいくのではないでしょうか。

 社会政策的にみれば、これには不公平感があるでしょう。「強きを助けて、弱気を挫いて」いるような見え方をするんです。でも、産業政策とは、そういうものです。「強きを挫いて、弱気を助ける」のは社会政策の役割です。社会政策は本来的には企業ではなく個人に対して講じられるべきでしょう。企業に対して社会政策をやると、成長力を阻害するという大きな社会的コストが発生するということを肝に銘じるべきです。

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