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平泉の奇跡~藤原清衡と「万人平等」の志

2011年08月11日 公開

高橋克彦(作家)

平泉
本稿は『歴史街道』2011年9月号「特集・平泉と奥州藤原氏」より抜粋・編集したものです。
 

平泉が持つ真の価値

今年6月、岩手県平泉町の中尊寺、毛越寺、無量光院跡、観自在王院跡、金鶏山が世界文化遺産に登録されました。その理由は、仏教の「浄土思想」に基づく景観として世界的に評価されたためです。

これらの景観はすべて、平安時代に奥州を治めた奥州藤原氏のもとで形づくられたものです。藤原氏は、「浄土思想」を軸にした国づくりを志向しました。初代清衡は平泉に都市を造営して、中尊寺と金色堂を創建。二代基衡は毛越寺を、三代秀衡は無量光院を建立しています。そして平泉は、清衡が居を置いた嘉保2年(1095)頃から、源氏によって滅ぼされる文治5年(1189)までの約百年間、「黄金楽土」と謳われる稀有の平和と繁栄を築き上げるのです。まさに平泉は東北が誇るべき文化遺産であり、それが世界に評価されたことは大いに喜ぶべきことでしょう。

とはいえ、平泉の真価については、多くの誤解があるように思えてなりません。たとえば中尊寺金色堂や毛越寺の浄土庭園の持つ"美しさ"が世界遺産登録の主因であったと考える方や、浄土思想に基づいた景観を、京都や奈良の寺院と同じように捉えている方もいらっしゃるでしょう。あるいは平泉の文化を、金山から産出される黄金の力によって、京都の仏教文化を「借り物」のように取り入れたものと見る向きもあるかもしれません。
 しかし、これらはすべて全くの誤りです。平泉の真価は、藤原氏が「浄土思想」に基づいて、「万人平等」の国をつくろうとした、その"志"にこそあるからです。そのことをご理解いただくために、浄土思想について簡単に説明しましょう。

浄土思想は元々、「人は死ねば、阿弥陀様のいる西方極楽浄土に行き、そこでは万人がみな平等に暮らしている」という仏教思想で、7世紀頃に日本に伝来したとされます。しかし、死んでから極楽に行くのでは、いま生きている世界では救われません。そこで、「現世浄土」という考え方が生まれます。死んだ後の「万人平等」の極楽の世界を、現実世界に目に見える形で現出させようというものです。そこから大寺院や庭園などをつくる動きが出てきますが、これができるのはもちろん財力のある権力者のみであり、しかも民衆に半ば強制して建造に従事させますから、これではかえって社会的階層差を生み出してしまい、とても「万人平等」の極楽とはいえません。

そのため「現世浄土」の考えは廃れ、やがて出てくるのが、末法思想です。これは時が経つにつれて仏の教えが衰え、世の中が乱れるというものです。日本では永承7年(1052)が末法の元年とされ、京の公家たちは、「自分だけはなんとか極楽に行きたい」と願い、必死になって寺院を建立しました。そのためには金が必要ですから、奥州から黄金が搾取されることになります。一方で一般民衆の間では、浄土思想はもはや死滅しているに等しい状況でした。

藤原清衡が生を享けたのは、そんな末法思想が広まっていた天喜4年(1056)のことです。しかしながら、清衡が平泉における国づくりで根幹としたのは、当時忘れ去られていた「現世浄土」でした。そしてそれに基づいて、「万人平等」の国をつくることを目指したのです。

清衡の志は、彼が読み上げた中尊寺の落慶供養願文に如実に現われています。

「鐘楼の音の功徳はあまねく皆平等で、敵味方の区別はない。故なくして命を落とした彼らを弔いたい。そして奥州を仏土としたい」

奥州で起きた前九年の役と後三年の役の戦乱で、命を落とした者たちを敵味方隔てなく弔うと同時に、「奥州に戦乱のない、みなが平等に暮らせる世界を築きたい」という清衡の願いがひしひしと伝わってきます。

自らが為政者でありながら、誰もが平等な国を目指した清衡は、世界史上稀有な存在といっていいでしょう。清衡がそうした高い理想を掲げ、かつ国づくりとして実践したことこそが、平泉の真の価値なのです。

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